薬不足の深層「赤字品を作れない…」製薬の本音 漢方薬まで出荷制限のドミノ倒しが止まらない

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別の薬局経営者も「買い占めはしないように気をつけているが、各薬局が少しずつ多めに買うことが流通不良につながっている」と話す。

薬の供給不安を恐れる薬局が在庫を抱え込むのも無理はない。今、医薬品の約2割に当たる約4000品目(8月時点)が供給不安に陥っているからだ。

とくにこの夏は新型コロナウイルスや風邪などの感染症の患者が増えた。「深刻なのが子ども用の薬。ペニシリン系の抗生剤がまったく入ってこない。やむをえず大人用の薬を調合し直している」と調剤薬局の薬剤師は話す。

「このままで冬場は大丈夫なのか」。医師や薬剤師たちはそう口をそろえる。

医師が指定した薬のないことが増え、薬局の薬剤師は薬を変更する作業に追われている

出荷制限のドミノ倒し

患者の増加と在庫の偏りが供給不安の一因だが、それだけではない。根底にあるのは薬のサプライチェーンの歪みだ。その起点は2017年の政府の大号令にある。

政府は医療費を抑えるため、当時7割だった後発薬の使用割合を「2020年までに8割にする」という目標を掲げた。特許が切れた先発薬と同じ成分を使って製造される後発薬は、価格が安い。政府は後発薬への変更を患者に促すことで薬局の収益が上がる仕組みなどを導入。その結果、2022年度には後発薬の数量シェアが目標の8割に達した。

ところが急速なシェア拡大はひずみをも生んだ。2020年、後発薬中堅メーカーの小林化工が製造する爪水虫薬に睡眠薬が混入する事件が起きた。健康被害が続出し、死亡者まで出た。2021年には大手の日医工でも製造や品質管理に問題が見つかり、1カ月の業務停止命令が下る。

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