英単語は「4秒後音読」で定着!"記憶"の最新豆知識 記憶を定着させ、「やる気」を出す脳の仕組み

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次に、D1受容体(D1R)とD2受容体(D2R)を遮断する2種類の薬を与え、同じ実験を行いました。その結果、D1RやD2Rを個別にブロック(遮断)すると、もらえるご褒美(報酬)のうれしさが少なくなり、また、待ち時間が長いともらえるご褒美の価値が下がる(遅延割引)と感じる傾向が強くなることがわかりました。

また、D2Rをブロックすると、必要な労力が大きいと感じた場合、その労力に対する報酬の価値が下がる(仕事量割引)と感じやすくなることが判明しました。

さらに、D1RとD2Rを同時にブロックすると、待ち時間が長いほど報酬の価値が大幅に下がるような相乗効果が得られましたが、逆に労力が大きい場合の報酬の価値の下がり方はそれほど大きくならない効果が得られることが明らかになりました。

自分の顔を見るとやる気が出る?

「やる気」の研究はほかにもあります。大阪大学の研究(⑨)によれば、自分の顔を見ることがやる気を出すことにつながるそうです。

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意識できないほど瞬間的、すなわちサブリミナルに表示されたときでさえ、やる気を引き出すドーパミンを放出する脳部位である「腹側被蓋野」が活性化するそうです。

逆に他人の顔が表示された際には、新情報に対応する扁桃体が活性化していたそうです。そもそもこのような脳の働きは、自分の顔を他人の顔よりも素早く認識する現象「自己顔の優位効果」として知られていました。

さらに、研究では、美容フィルターを使った自己顔の変化が腹側被蓋野の活動に影響しないことも確認されていて、自己顔と他者顔の無意識的区別は、顔の形状全体よりも、目や鼻などのパーツに基づいている可能性を示しています。ひょっとしたら、やる気が起きないときは、自分の顔を見るだけでやる気がわいてくるのかもしれません。

出典:

①Carpenter S. K., Pan, S. C. & Butler, A. C. The science of effective learning with spacing and retrieval practice. Nat Rev. Psychol. 2022; 1: 496-511.

②Buch, E. R., Claudino, L., Quentin, R., Bönstrup, M. & Cohen, L. G. Consolidation of human skill linked to waking hippocampo-neocortical replay. Cell Rep. 2021; 35.

③Yonelinas, A. P., Ranganath, C., Ekstrom, A. D. & Wiltgen, B. J. A contextual binding theory of episodic memory: systems consolidation reconsidered. Nat. Rev. Neurosci. 20,364-375 (2019).

④Kapnoula, E. C. & Samuel, A. G. Wait long and prosper! Delaying production alleviates its detrimental effect on word learning. Lang. Cogn. Neurosci. 0, 1-21 (2022).

⑤Greenacre L., Garcia, J. E., Chan, E., Howard, S. R. & Dyer, A. G. Vertical versus horizontal Spatial-Numerical Associations (SNA): A processing advantage for thevertical dimension. PLOS ONE, 2022; 17: e0262559.

⑥Nakamura, N. H., Fukunaga, M., Yamamoto, T., Sadato, N. & Oku, Y. Respiration-timingdependent changes in activation of neural substrates during cognitive processes. Cereb
Cortex Commun. 2022; 3: tgac038.

⑦Decker, A., Dubois, M., Duncan, K. & Finn, A. S. Pay attention and you might miss it: Greater learning during attentional lapses. Psychon Bull Rev. 2022; doi:10.3758/
s13423-022-02226-6.

⑧Hori Y, et al. D1- and D2-like receptors differentially mediate the effects of dopaminergic transmission on cost-benefit evaluation and motivation in monkeys. PLOS Biol. 2021;
19: e3001055.

⑨Ota C & Nakano T. Self-Face Activates the Dopamine Reward Pathway without Awareness. Cereb Cortex. 2021; 31: 4420-4426.

中尾 篤典 岡山大学学術研究院医歯薬学域 救命救急・災害医学講座 主任教授

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なかお あつのり / Atsunori Nakao

医師、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救命救急・災害医学講座教授。1967年京都府生まれ。岡山大学医学部卒業。ピッツバーグ大学移植外科(客員研究員)、兵庫医科大学教授などを経て、2016年より現職。著書に『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えます』『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えますPart2』(共に羊土社)がある。

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毛内 拡 お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系 助教

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もうない ひろむ / Hiromu Monai

1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科 博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員を経て、2018年よりお茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教。生体組織機能学研究室を主宰。脳をこよなく愛する有志が集まり脳に関する本を輪読する会「いんすぴ!ゼミ」代表。「脳が生きているとはどういうことか」をスローガンに、マウスの脳活動にヒントを得て、基礎研究と医学研究の橋渡しを担う研究を目指している。研究と育児を両立するイクメン研究者。分担執筆に『ここまでわかった! 脳とこころ』(日本評論社)など。

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