世界が揺れた自動車産業の供給網寸断、現場の奮闘で着実に復興

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米フォードは看板色の「黒」が造れなくなった

日産いわき工場の近くには、ほかにもその稼働停止が世界の自動車生産に影響を与えた工場がある。

ドイツの大手医薬品・化学品メーカー、メルク。小名浜工場で作る自動車塗料「シラリック」は、世界のメーカーに幅広く採用される。

同塗料は酸化アルミニウムを原料にする無機顔料。独自の光沢や角度によって色みの変わる色表現に特徴がある。00年に小名浜工場で開発され同工場が唯一の生産拠点だ。自動車用途では国内向けと輸出が半々。米大手フォードは3月末、初期の「T型フォード」の色で同社のイメージカラーでもある黒や、赤色の自動車の新規受注を停止、クライスラーも10色の購入制限を行ったが、この顔料不足が原因といわれる。

「詳細は言えないが、グローバルで問い合わせがあったのは事実」。同社のカール・レーザー社長はそう打ち明ける。当初余震や原発問題で工場内に立ち入ることができなかったが、4月4日から復旧作業を開始。10名ほどの危機対応チームを中心に、休日返上で作業に当たった。工業用水の復旧もあり、連休明けの8日には通常生産を再開。こちらも予定より約1カ月早かった。

11年末にはドイツでもシラリックの生産を開始する。震災前からの計画であり、生産能力の増強が狙いだ。小名浜工場では12年から、自動車や化粧品など多用途を想定した新顔料の生産が始まる。レーザー社長は、「日本には独自の開発・生産技術がある。震災は日本での生産をやめる理由にはならない」と断言する。

電子部品などの不足で依然として減産は続いているものの、自動車のサプライチェーンは着実に回復している。そして自動車業界は東北拠点の重要性を再認識するとともに、リスク分散をどう図るかという新たな課題に向き合うことになる。

(週刊東洋経済編集部 =週刊東洋経済2011年5月28日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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