病気治療のカギ?「共生菌」が世界で注目される訳 難病・感染症予防のほか、「子の成長」にも関与
この関係がわかれば、対応策を講じることは可能だ。
研究チームは、RELMαの合成を促進するビタミンA誘導体のイソトレチノインに注目した。この物質をマウスに投与したところ、アセトフェノンの放出が減り、蚊に刺されにくくなったという。
まだ動物実験のレベルだが、将来の創薬を見据えた興味深い知見だ。
ジカ熱やデング熱は、マラリアと並ぶ公衆衛生上の重要な課題だ。だからこそ、権威ある『セル』誌が大きく取り上げた。日本では、あまり注目されていないが、重要な研究だ。
共生菌に関する研究は、人においても進行中だ。
例えば、中国の南方医科大学の研究チームは6月15日、帝王切開で生まれた赤ちゃんに、出産直後に母親の腟液を塗布することが神経発達にどう影響を与えるかを調査し、その結果を『セル・ホスト・アンド・マイクローブ』誌に発表した。
この研究では、腟液を塗布された赤ちゃんは、無菌ガーゼを使用した対照群と比較して、腸内細菌の集合体である腸内細菌叢(そう)の発達が促進され、神経発達が良好だった。
わが子の健康な成長を願わない親はいない。この方法は途上国であっても、簡単に実行できる。
もちろん、その効果については、今後の検証が必要だが、現時点でも十分にニュース価値がある。だからこそ、『ネイチャー』誌でも「ニュース」として取り上げられた。
免疫が影響する病気との関連も
共生菌と病気の関係についても研究は進んでいる。
例えば昨年8月、アメリカのボストン大学の研究チームは、パラバクテロイデス・ディスタソニスという菌が腸内細菌叢にいる子どもは、1型糖尿病を発症しやすいという研究結果を『アメリカ科学アカデミー紀要(PNAS)』に発表した。
1型糖尿病は生活習慣病の2型糖尿病とは違い、 自己免疫疾患(免疫システムの暴走によって自分の免疫が自分の組織を攻撃してしまう病気)だ。新型コロナを含め、さまざまな感染症との関連が指摘されている。
問題は、どんな病原菌が1型糖尿病を起こすかで、パラバクテロイデス・ディスタソニスという腸内細菌は、その候補の1つだ。
パラバクテロイデス・ディスタソニスは、膵臓から分泌されるホルモン、インスリンの構成成分と類似したペプチド(hprt4-18)を産生する。人の免疫細胞は、この物質を異物と認識して攻撃するが、ときに誤って、人のインスリンやそれを産生する細胞を攻撃してしまうらしい。
腸内細菌叢からhprt4-18が検出された子どもは、そうでない子どもと比べて1型糖尿病と関連する自己抗体が検出される頻度が高い。
1型糖尿病のモデルマウスの腸内にパラバクテロイデス・ディスタソニスを移植すると、移植しなかったマウスと比べて、1型糖尿病の発症時期が早まったという。いずれも、パラバクテロイデス・ディスタソニスが1型糖尿病の発症に寄与することを支持する所見だ。
1型糖尿病は代表的な小児難病だ。今後、このような研究が進めば、腸内細菌をコントロールすることで、発症を予防できる可能性がある。
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