病気治療のカギ?「共生菌」が世界で注目される訳 難病・感染症予防のほか、「子の成長」にも関与

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8月3日、科学雑誌『サイエンス』誌に掲載されたアメリカのジョンズ・ホプキンス大学の、亜熱帯や熱帯地方の感染症マラリアに関する研究が注目を集めている。

研究では、 マラリアを媒介するハマダラカという蚊にデルフティア・ツルハテンシスTC1という細菌が感染していると、ハマダラカに寄生するマラリア原虫の増殖が抑制されることが明らかになった。

デルフティア・ツルハテンシスTC1菌は、ハルマンという有毒アルカロイドを分泌することで、マラリア原虫の成長を妨げる。一方、ハマダラカには害を与えず、むしろ共生関係にあることがわかっている。

この菌を活用することでハマダラカの体内でのマラリア原虫の増殖を抑制し、万が一、刺された場合の感染リスクを低下させる可能性がある。

世界の公衆衛生におけるマラリア対策の重要性は、改めて説明の必要はないだろう。2021年、世界では約62万人がマラリアで亡くなった。だからこそ、『サイエンス』編集部はこの研究を大きく取り上げたのだ。

『サイエンス』に載ったマラリアの記事(サイエンスのホームページより)

ジカ熱・デング熱の研究も進む

マラリアと同じく蚊が媒介するジカ熱やデング熱に対しても、共生菌の視点からの研究が進んでいる。昨年6月に中国の清華大学がアメリカの科学雑誌『セル』誌に発表した研究も興味深い。

ジカ熱やデング熱の原因となるフラビウイルス属は人には有害だが、蚊には害を及ぼさない共生菌だ。

以前から、ジカ熱やデング熱にかかると蚊に刺されやすくなることが指摘されていた。 清華大学の研究チームは、この機序の解明に取り組んだ。

彼らが実施したマウスの実験によれば、フラビウイルスに感染したマウスが発する揮発性成分のアセトフェノンが、蚊の嗅覚を刺激して、呼び寄せているようだ。実際、デング熱患者は、アセトフェノンをより多く放出していることも確認されている。

では、デング熱やジカ熱の患者の体内では、どのような機序でアセトフェノンの産生が増えているのだろうか。

それは、フラビウイルスが人の皮膚細胞の代謝に影響し、抗菌作用のあるタンパク質RELMαの産生を抑制しているのだ。抗菌作用が失われた皮膚ではさまざまな菌が増殖し、その中にはアセトフェノンを産生する共生菌も含まれる。

その結果、アセトフェノンの放出が増える。こうやって、フラビウイルスが感染した人の皮膚に蚊が吸い寄せられる。

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