大阪万博会場・夢洲の「野鳥の楽園」が喪失危機 渡り鳥が飛来する湿地を埋め立てリゾート開発

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こうした見方に、日本野鳥の会の葉山政治常務理事は反論する。「南港野鳥園と夢洲の両方を鳥たちは利用していたんですよね。休息場所なり採餌場所として」。葉山さんは、その両方にできるだけ鳥が使える場所を残す、あるいは作るべきと考えている。

また「有明海の干潟でも、豪雨で流木が干潟を覆ったということが起きています。大阪湾で航路を維持するための浚渫土をうまく使えば、干潟のような環境は次から次へと維持できるはず。渡り鳥の生息地を確保していくことが可能ではないか」と葉山さんは指摘する。

万博協会と環境5団体による「検討会」始まる

万博協会は9月28日、環境3団体(日本自然保護協会、日本野鳥の会、世界自然保護基金ジャパン)と地元2団体(大阪自然環境保全協会、日本野鳥の会大阪支部)を招き「検討会」を開催。ウェブ上での会議で非公開だ。特にウォーターワールドエリアでどのように湿地環境の維持・創出をしていくかについて話し合い、後日、議事要旨を公表するという。

一方、環境3団体は利害関係者が参画した協議の場を設け、万博終了後の跡地利用を含め、大阪市、大阪府を含む関係機関と一緒に検討を進めていくよう求めてきた。

万博協会の持続可能性有識者委員会の委員を務める渡邉綱男・IUCN日本委員会会長も「環境団体や専門家を含む多様な利害関係者が公開の場で検討してみなの知恵を集めるべき」と主張してきた。より大きな視点で、大阪湾全体での湿地環境の維持・創出を求めているからだ。

28日にスタートした「検討会」には、大阪市や大阪府は参加していない。この点について聞くと、万博協会の永見靖・持続可能性部長は「大阪市との調整がそこまでには至っていない。環境団体のご意見は市には伝えていきます」と答えた。

大阪自然環境保全協会は10月1日まで岸和田市のきしわだ自然資料館で写真展を開き、夢洲の生きものの姿を伝えている。

会場で夏原由博(よしひろ)会長(名古屋大学名誉教授)はとつとつと語った。「博覧会(万博協会)は、自然環境や生物多様性の重要性を位置づけて、その実例として夢洲の自然をどうするか、しっかり考えるべきだ。大阪市は、万博跡地を民間に売ってリゾートにすると言っているが、いまやヨーロッパやアメリカの人たちは自然の豊かなところでないと足を運ばない。ホテルからシギ、チドリの群れが見えるようにしたほうが、夢洲の価値が上がることに気づいてほしい」。

万博では地球的規模の課題について一週間集中的に議論する「テーマウィーク」が設けられ、そのひとつに「地球の未来と生物多様性ウィーク」がある。万博が大阪湾での湿地環境の維持・創出につながっていくのだろうか。シギ、チドリが飛来する湿地環境が消えてしまえば、一種のブラックジョークとして歴史に残る万博となるだろう。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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