大阪万博会場・夢洲の「野鳥の楽園」が喪失危機 渡り鳥が飛来する湿地を埋め立てリゾート開発
世界で300羽まで減ったとされ、環境省のレッドリストで「絶滅危惧IA類」に指定されているヘラシギについてみると、夢洲では2005年と2006年に観察された記録がある。その後は観察されていない。
日本野鳥の会大阪支部長の納家仁さん(62)は、「私はシギ、チドリが一番好きなので、ずっと悲しい思いをしています。これまでは身近な水辺で、今年もまた渡ってきたんだね、と季節になれば出会えた。大阪や関東では極端に減っているんです」と顔を曇らせる。
9月14日、日本野鳥の会大阪支部と大阪自然環境保全協会が大阪港湾局から現地で工事の説明を受けた際には、小型のシギであるトウネン約150羽を確認できた。
納家さんの嘆きは続く。「トウネンは今年春にシベリアで生まれた幼鳥が、子供たちだけで集団を作って渡って来るんです。夢洲の浅い泥状のところで、ユスリカの幼虫を食べたりしている。でも浅い泥の場所がなくなってしまえば、もう姿を見ることはできない」
世界的な生物多様性の危機に対処するには
「埋め立て途上の夢洲で偶発的に出現した湿地環境を維持することはできない」という大阪市のロジックは、正しいのだろうか。放っておけば干上がるなどの変化を止める難しさは別にして、人間による自然の改変の過程でたまたま生じた状態であり、維持する必要はないという考えがベースにみられる。
だが、高田直俊・大阪市立大学名誉教授(地盤工学)は「南港野鳥園も、東京の大井にある東京港野鳥公園も、埋め立て工事途中の水たまりが起源になっている」と指摘する。
これまで私たちは人間による改変の途中で出現した自然環境をも守り、楽しんできた。「まとまった広さの浅い水たまりがあれば、水生昆虫が発生し、それを目当てにシギ、チドリが飛来する」と高田名誉教授が言うように、湿地の維持や創出は可能なのだ。
さらに、万博協会が行った環境アセス準備書からは「夢洲で鳥の生息地がなくなっても、1km南にある南港野鳥園があるから大丈夫」という考えが見て取れる。また、大阪湾で渡り鳥の中継地となってきた湿地がなくなっても有明海の干潟があるから大丈夫、という説明を聞くこともある。
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