人類は「理想の子ども」を作る誘惑に勝てるのか 現生人類はポストヒューマンに淘汰される?

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ポストヒューマン(posthuman)という概念は、人間以降の存在、人間を超えた存在として理解されている。現在の人類に比べて非常に優れた能力を持ち、自然な人類の進化と過激な人間強化を組み合わせて生み出される。

やがて現生人類と呼べる要素が失われていく

ここで補足しておくと、ポストヒューマンについても多様な見解がある。近年のポストヒューマン論では、斧や火のような原始的道具を利用し、文字や印刷技術を身体機能の外在化と捉えることで、いまの人間はすでにポストヒューマンとして存在してきたと定義するものもある。しかし、ゲノムテクノロジーにより、身体そのもの、生命を操作することは、人間を超えた存在を生み出すことになり、現状の人間のまま道具や外在化した技術を活用することとは次元が違う。ゲノム編集を施した人間は、まさに人間以降の存在になりうる。

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ゲノム編集技術を使った遺伝子改変は、子孫にその遺伝子が受け継がれる点が重要だ。

本書においては、一部でも拡張目的の遺伝子改変をしたホモ・サピエンスはポストヒューマンの要素を持ち始め、種として優位にあるポストヒューマンを主体としてDNAを残し続けることで、世代を跨いでポストヒューマンへと置き換わる可能性を提示したい。拡張目的の遺伝子の改変によるポストヒューマンは、これまでの人類の系譜とは性質が違うという視点に立つ。

その点において、部分的な改変であっても「ポストヒューマン以降」と見なし、世代を経て改変を重ねる度に、境界線は自然とポストヒューマン寄りになり、やがて現生人類と呼べる要素が失われていくと考える。

AIが知能において人間を凌駕し始めると、存在意義が路頭に迷わぬよう、人間にできること、優位性を確保するために、ゲノム編集で脳や身体の能力を拡張することが選択肢として浮上する。AIの超知能化もポストヒューマンへ置き換える圧力となり、ホモ・サピエンスがポストヒューマン化する潮流を作る。

両親の理想どおりのデザイナーベビーとして誕生したポストヒューマン。生まれながらにして、好みの顔、肌や髪の色、体形を持つ。瞬発力やパワーなどの筋力と運動神経を兼ね備え、知能も人工超知能に負けないようにデザインされている。病気にならない身体で長寿。デザイナーベビーとして生まれてくることはあくまでもスタートラインであり、より美しく、より強く、より知的になるよう、ゲノム編集技術による定期的な強化、メンテナンスは欠かせない。

もはや、二刀流どころではなく、万能でなければポストヒューマン時代の超ハイレベルな競争を生き抜くことはできない。ポストヒューマンとして勝ち抜けるのは、高レベルの最新ゲノム編集技術を駆使できる財力と地位の持ち主であり、やりたくてもできない人間や、倫理に反するとして抗う人間との分断は、世代を重ねるにつれ、埋めようもない次元の違いに達している。次第にポストヒューマンの勢力がホモ・サピエンスを圧倒し、やがて〝旧人類〞は淘汰されてしまう。

デザイナーベビーを生み出す技術は、人類の未来を大きく左右するターニングポイントとなる。人類の運命を問う瀬戸際といってもいいだろう。

小川 和也 北海道大学産学・地域協働推進機構客員教授/グランドデザイン株式会社CEO

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おがわ・かずや / Kazuya Ogawa

専門は人工知能を用いた社会システムデザイン。人工知能関連特許多数。テクノロジーを基点に未来のあり方を提唱するフューチャリストとして、ラジオや出版など各方面で言論活動も行う。著書『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は教科書や入試問題に数多く採用され、テクノロジー教育を担っている。

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