焼肉店の「ロース」ずっと定義が曖昧だった不思議 消費者庁が改善要請も、どんな背景があるのか

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自分で肉を焼いて食べる文化はすき焼き店の日本式焼肉に存在していました。それでは、焼肉店の「ロース」という曖昧な肉の定義は何に由来するのでしょうか?

“ロース 英語のRoastで、今のように、霜降りだの、ヒレ(フィレーの訛り)だのと、うるさいことは言わず、極上肉はすべてロースで片づけていた(中略)明治の言葉は、大ざっぱな表現をした。”(植原路郎『明治語録』)

風俗研究家の植原路郎によると、ロースはすき焼き店などで提供されており、明治時代からその定義が曖昧なものでした。部位に関係なく各々の店が上質な肉と考える肉を、ロースとして提供していたのです。

このロースの曖昧な定義は、戦後も引き継がれることとなります。洋食店「日本橋たいめいけん」創業者茂出木心護は、1978年出版の本において、すき焼き店のロースの定義のデタラメさを批判しています。

“有名なすき焼きやさんで看板に牛ロース一人前〇〇円と書いてあるので注文しました。皿に盛った牛肉を見ると、牛ロースでないので、「これは牛ロースではない、私は牛ロースを注文したのです」といったら、係の女中さんは平気な顔をして「店の牛ロースは上肉です」と返事しました。”(茂出木心護『うるさい男も黙る洋食の本』)

ロースの曖昧な定義が、焼肉店に持ち込まれる

戦前人気だったすき焼き店は、戦後になると次第に衰退していきます。かつて隆盛したいろは/本みやけチェーンも、2023年に最後の店が閉店してしまいました。

すき焼き店にかわるかたちで数を増やしていったのが、焼肉店でした。すき焼き店でヘット焼などの鍋焼肉を楽しんでいた日本人たちも、次第に網焼きの焼肉店へと移動していきました。

日本人客が増える過程で、かつてのすき焼き店の曖昧な言葉「ロース」と、客が自分で肉を焼く習慣が、焼肉店に持ち込まれたのではないかと思います。

近代食文化研究会 食文化史研究家

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きんだいしょくぶんかけんきゅうかい / Kindai Shokubunka Kenkyukai

食文化史研究家。2018年に『お好み焼きの戦前史』を出版。以降、一年に一冊のペースで『牛丼の戦前史』『焼鳥の戦前史』『串かつの戦前史』『なぜアジはフライでとんかつはカツか?』等を出版。膨大な収集資料を用いて近代の食文化史を解き明かしている。(Amazon著者ページTwitterアカウントnote

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