なお、「日本化」というフレーズは、金融市場関係者によって、コロナ禍前に米欧諸国で日本のような低インフレ・低金利が続く状況を指して使われた。高インフレに見舞われたことで「米欧の日本化」懸念はかなり低下したが、最近は、中国において日本が経験した長期停滞が訪れるのではないかと懸念されている。
インフレ目標軽視なら「中国の日本化リスク」懸念続く
かつての日本と今の中国に相違点もあるので、単純に対比するのは難しい面もある。ただ、「物価の番人」である中央銀行の政策対応が日本の長期デフレの主たる要因だったと考える筆者にとって、中国も同様のリスクに直面しているようにみえる。
現在のところ、中国人民銀行の政策判断プロセスは不明確である。だが、中国人民銀行は国務院(内閣)に属する26部門の1つであり、政策判断には政治的な意向が影響するとみられる。
政府による年1回の活動報告で、目標とされるインフレ率が提示されているが、現状は3%である。ただ、インフレ目標の位置づけは曖昧であり、中央銀行が、先進国のようにインフレ目標に責任を持って対応しているようにはみえない。
日本では、1990年初頭の平成バブル崩壊後に、マネーサプライが減少するなど日本銀行の金融政策が引き締め的であるとの主張が経済学者などから提唱され、それに反対する日銀幹部との論争が行われた。
日銀は当時の政策対応を正当化、その後も保守的な金融政策の対応が続いた。この対応こそが、1990年代後半以降のデフレと低成長を招いた大きな要因だろう。日本がデフレ克服に向かうには、標準的な経済理論を重視する経済学者の知見をとりいれた政治家が、2%のインフレ目標を明示化するなどで日銀の政策レジーム(枠組み)を大きく変えることが必要だった。
金融政策やインフレ目標の是非について、かつての日本で起きたような論争が中国で行われているのか、筆者はほとんど知らない。ただ、中国では3%インフレが目標とされているが、コアインフレ率については2018年から2%以下での推移が続いている。
そして、コロナ禍後の経済停滞局面でも、中国人民銀行による政策金利引き下げは0.1%ずつの小刻みな対応が続いている。この対応の根拠は明確ではなく、インフレの上振れリスクに過度に配慮した、場当たり的な対応を続けている可能性がある。
筆者が懸念するように、もし中央銀行の政策が経済安定化政策として機能不全に陥っているならば、2012年以前の日本と共通していると言えるだろう。この点が中国経済への期待を低下させる要因になっている、と筆者は考えている。
他国で重視されるインフレ目標が軽視され、低インフレやデフレを許容するかのような中国人民銀行の対応が今後も続くなら、「中国の日本化リスク」に対する懸念はくすぶり続けるのではないか。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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