中国経済の失速は数十年にわたって続くトレンド 緩やかな下り坂か、急な下り坂かの角度の違いだけ
また、訪日外国人数で、中国はコロナ前の2019年に約959万人で国別で最多でした。中国人の所得・雇用環境が悪化すれば訪日する中国人旅行客数が伸び悩み、国内のインバウンド需要を下押しすることになります。
日本では、自動車・機械といった外需型の製造業が現在の主力産業です。インバウンド関連が将来の主力産業だと言われます。中国経済の失速は、日本の現在・将来の主力産業に大きなダメージを与えることになります。
台湾有事のリスクが高まる
さらに、筆者が懸念している2つ目の危機は、台湾有事です。習近平国家主席は、政権3期目のスタートを切った今年3月の全国人民代表大会(全人代)で、台湾統一の目標を内外に宣言しました。昨今の経済失速によって、中国が台湾に軍事侵攻する可能性が高まります。
多くの人は、「国力が下がり、若い兵隊の数も減っていく状況で、軍事侵攻なんて無理でしょ」「少なくとも当面は、経済対策に手一杯では?」と思うかもしれません。しかし、経済失速で台湾有事のリスクが小さくなるというのは希望的観測にすぎず、逆にリスクが大きくなると筆者は考えます。
行動経済学によると、人間は完全に合理的でも、完全に非合理的でもなく、ある状況の中で限定合理的に行動します。すでに台湾統一という国家の目標が定まっている状況で、また国民の不満がたまってガス抜きが必要な状況で、習近平国家主席が合理的に考えたら、「やるなら国力も若い兵隊も残っている今のうちに」となっても不思議ではありません。
1941年秋の日本の指導者も、アメリカには絶対に勝てないとわかっていながら、対日石油輸出禁止という状況を受けて、「やるならまだ石油が残っている今のうちに」と開戦に踏み切りました。プーチン大統領のウクライナ侵攻も、同じようなロジックでしょう。
戦争は、国家の指導者が正気を失って起こるのではなく、ある状況で合理的に考えるから起こるのです。習近平国家主席が合理的な人間であるなら、中国経済の失速によって台湾有事のリスクはむしろ高まるでしょう。
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