中国経済の失速は数十年にわたって続くトレンド 緩やかな下り坂か、急な下り坂かの角度の違いだけ

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では、中国の経済失速という巨大な危機に日本はどう対応するべきでしょうか。現在、政府は、台湾有事に備えて防衛力や経済安全保障を強化しています。

ただ、これらは実際に台湾有事が起こった際の対応にすぎません。不要とまでは言いませんが、もっと大切なのは、そもそも習近平国家主席に台湾侵攻を思いとどまらせることです。ここで、日本が早急に取り組みたい2つの対応があります。

1つは、ウクライナへの支援です。ウクライナへの支援を強化し、戦争を早期に終結させ、プーチン大統領の野望を打ち砕くことができれば、習近平国家主席は「武力による台湾統一は極めて困難」と認識することでしょう。

また、習近平国家主席は憲法を改正し、最長で「2期10年」だった国家主席の任期を廃止したうえ、後継者の確定を避けており、終身制を望んでいるようです。ロシアのウクライナ侵攻を終わらせるだけでなく、プーチン大統領を退陣に追い込むことができれば、習近平国家主席は「台湾統一にこだわって国家主席の座を追われたら元も子もない」と考えるでしょう。

日本がウクライナを直接軍事的に支援することはできませんが、資金面の支援やすでに始まっている復興への支援は可能です。また、戦争の長期化で各国のウクライナ支援の結束が緩んだり、インドなど中立的立場の有力国がロシア陣営に加わることがないよう、各国に働きかけることが期待されます。

中国の「日本化」を阻止する取り組みが必要

もう1つは、経済面での対応です。中国がバランスシート不況に陥るのを阻止し、陥ったとしても早期に脱却できるよう、日本としても支援することが必要です。

日本には、バブル崩壊後10年以上かけて多大な代償を払って学んだ、「3つの過剰」(資産・負債・人員)の処理や金融システム安定化のノウハウがあります。政府・日銀や民間金融機関がこうしたノウハウを持つ専門家を中国に派遣するなど、中国の「日本化」を阻止する取り組みを全力で支援するべきです。

日本では、世論やマスメディアだけでなく政府も、中国の経済失速には「対岸の火事」という感じであまり発信がありません。中国経済の失速が日本の危機であることを認識し、早急に対応を進めることを期待しましょう。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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