経済大不振に焦る中国は台湾侵攻に突っ込むのか 伝説のエコノミストが語るアジアの2大リスク

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「バランスシート不況」論で世界的に知られるクー氏のルーツは台湾の名門。日米中に幅広い人脈を持つ(写真:風間仁一郎)
中国経済の停滞ぶりが明らかになる一方で、台湾有事のリスクが強く意識されるようになってきた。野村総合研究所の主席研究員・チーフエコノミストであるリチャード・クー氏はバブル崩壊後の日本を分析し、「バランスシート不況」という概念を提唱したことで知られる。日米中、そして台湾の事情に精通する世界的エコノミストに東アジアの2大リスクをずばり診断してもらった。

 

――ゼロコロナ政策を撤廃してからも、中国経済の回復は遅れています。アメリカとの国力の差が埋まらないことに焦る中国が武力での台湾統一を急ぐという見方があります。

中国が経済に関してまだ自信満々だった5~6年前のほうが怖かった。ヒトラーが対外侵略に乗り出したのはドイツ経済が絶好調だった時期だ。

かりに武力行使に踏み切って失敗すれば、1982年にアルゼンチンが超インフレのもとでイギリスへ仕掛けたフォークランド紛争の二の舞いになりかねない。イギリスに敗戦した結果、アルゼンチンの軍事政権は崩壊している。中国にとってはリスクが大きすぎる。

中国では銀行が悲鳴を上げている

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――クーさんが1990年代の日本で提唱した「バランスシート不況」論が中国で注目されています。

GDPが増えるというのは支出が増えるということ。みんなが自分の収入の範囲でお金を使っていたら経済は安定するが成長はしない。つまり企業が借金して投資するか、消費者が魅力的な商品やサービスのために金を借りて使うか。経済を成長させるにはいずれかが必要だが、ともに今の中国には不足している。

バランスシート不況は、人々が自分の資産に対して負債が大きすぎると考えることから始まる。そうなると個人は消費を控え、企業は投資をせずに借金の返済を最優先にする。実際、現在の中国ではみんな借金の返済をするばかりでお金を借りてくれないという銀行の悲鳴が聞かれる。

――不動産価格の下落が引き金ですか。

中国ではまだバブル崩壊後の日本ほど資産価格は下がっていないが、みな現在の資産価格が本当に適正か半信半疑になっている。そして将来のバランスシートの心配をし、借金を減らそうとしている。個々の判断としては正しいし健全だが、それをみんなが同時にやると、合成の誤謬が生じて経済は低迷する。

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