民意無視・タイ"野合政権"を成立させた密約とは 第1党が組閣できず民意は置き去り、生き残る大麻

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プアタイは、過去10年間届いたことのない5%の成長率を達成するとして、16歳以上の全国民に1万バーツの電子マネー配布や、最低賃金を現在の7~8割増の1日600バーツとする公約を掲げた。

タクシン首相時代の農民債務削減やインラック政権の最低賃金の大幅上げは、外資が集まってタイ経済が上げ潮の時期だったころもあり、国内の格差是正や生産性向上に一定の効果があった。しかしプラユット政権下で政府の財政赤字は、コロナ禍もあって膨らみ続けた。対GDP比で2014年の約40%が2022年には60%近くにまで拡大している。

経済を知らない軍人中心の政権運営に加え、「中進国の罠」や少子高齢化の加速といった構造的な問題も顕著になっている。そうした時期に政権を継ぐプアタイのばらまき政策がかつてのような効果を発揮し、経済を押し上げる効果がどこまであるのか、タクシン氏に他の妙手があるのか、現段階では見通せない。

暗くない前進党の未来

一方、政権から排除された前進党は、解散がなければ雌伏の4年を過ごすことになるが、野党として不敬罪の改正や徴兵制の廃止などの公約を曲げずに法案提出を繰り返し、支持拡大の集会を各地で開催すれば存在感は維持されるだろう。

プアタイに失望した有権者らの取り込みも進むはずだ。上院が首相指名に加わる規定は来年で終わる。今回の選挙での得票率は4割近かった。次の選挙で過半数を取れば、政権にたどり着く。

王党派の危機感はこれまで以上に強い。政権に就いたことのない前進党に汚職の余地は少なく、国民の敬愛を集めたプミポン前国王から現国王への代替わりで王室の求心力も低下するなかで、タクシン派政党以上に付け入るスキがないように感じているはずだ。

憲法裁判所はすでにピター党首の下院議員の資格を停止した。憲法裁は2020年3月、政党法違反を理由に前進党の前身「新未来党」を解党し、幹部を10年間の政治活動禁止の処分を下した。この例を踏襲する可能性も大いにある。新政権が上院の首相指名権の期限延長を画策するかもしれない。

そうしたハードルを乗り越えて政権に就けるか。政権に就いたとして、軍や司法のクーデターで転覆させられないか。民主化へ向けての道のりは平坦ではないが、未来は暗くないようにみえる。

柴田 直治 ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

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しばた・なおじ

ジャーナリスト。元朝日新聞記者(論説副主幹、アジア総局長、マニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任)、近畿大学教授などを経る。著書に「ルポ フィリピンの民主主義―ピープルパワー革命からの40年」、「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」。

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