民意無視・タイ"野合政権"を成立させた密約とは 第1党が組閣できず民意は置き去り、生き残る大麻

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タイ国立開発行政研究院(NIDA)が1310人を対象に2023年8月15~17日に実施した調査によれば、親軍政党が加わる連立政権について「断固反対」が約48%、「どちらかと言えば反対」が約17%を占めた。プアタイ貢献党を一貫して支持していると答えたコアな支持者でも38%が連立に反対した。

プアタイの今後を1946年に設立されたタイ最古の政党・民主党の軌跡と重ねる専門家もいる。これまで3度政権を率いた民主党は、今回の総選挙で25議席しか獲得できなかった。

2007年の総選挙では480議席中165議席を獲得したが、2011年には159議席(定数500)、2019年が53議席(同)と減らしていた。

バンコクの中間層や南部が地盤だったが、2008年12月、司法の介入でタクシン派政権が崩壊すると、軍の後押しでアピシット党首を首班に政権に就いた。民主主義を標榜し、長年軍事政権と対峙してきた党のイメージは損なわれ、さらに2019年に親軍政権の連立に参加するに至って首都の進歩的な有権者から完全に見放された。

親軍政党と「悪魔の連立」を組んだ時点でプアタイは、民主党の衰退の歴史をなぞるとの予見が成り立つ。実際に今回の選挙でも最終盤にタクシン氏が帰国を予告し、親軍政党と取引するとの臆測が流れたことで票を大幅に減らした。

選挙戦中盤では310議席を獲得目標に掲げた陣営だが、最低目標だった250議席にも遥かに届かなかった。2001年にタクシン氏が政権と取って以来、クーデターや司法介入で政権を奪われてからも次の選挙では必ず勝ってきた常勝軍団にとって初めての敗戦だった。

民主党との違いは、資金力のあるリーダーを持つ点だ。民主主義という看板と自らの望郷の念をバーターしたタクシン氏が今後も政治にかかわり続けるのか。王党派との密約のなかに「政界引退」が含まれるのか。政局に資金をつぎ込み続けるのか。プアタイの行く末は所詮オーナーのタクシン氏次第なのだ。

ばらまきで失地回復を狙う

セター政権に期待されるのは経済の立て直しである。プアタイとしても国民生活を目に見える形で底上げすることでしか支持の回復は見込めない。その点、タクシン氏には過去の成功体験がある。

首相を務めた2001年からクーデターで追放された2006年までの間、貧困対策・内需振興と輸出促進・外資導入を同時にめざす「デュアル・トラック政策」で、約5.1兆バーツだった国内総生産(GDP)を7.9兆バーツへと5割増とした。1人当たりのGDPも8.2万バーツから12万バーツに底上げした。経済成長率は東南アジア諸国連合(ASEAN)のなかでトップだった。

タクシン氏と同様の起業家で、タイを代表する不動産会社を一代で築いたセター氏への期待もあるが、政局の混乱が続いた十数年を経て、タイ経済を取り巻く状況は大きく変化した。なかでも2014年のクーデターを首謀したプラユット氏が政権の座にあった9年間、外国投資や輸出は低迷し、成長率は鈍化した。

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