2回目の会議は8月15日、ウクライナとの国境に近いポーランド東部で開かれた。メンバーには大きな変更があった。アメリカ側からミリー議長が参加しなかったのだ。
これはミリー議長がウクライナ政府に毛嫌いされていたためとみられる。ミリー議長が2022年秋以降、反攻作戦の見通しについてつねに悲観的見解を表明して、キーウ側から反発を受けていたのだ。
一方で参加者を巡ってウクライナ側にもある思惑があった。イギリスのラダキン軍総長にこの協議への参加を要請したことについて、ウクライナの軍高官はこう解説した。「ペンタゴンばかりだとわれわれが協議で押される可能性があったので、イギリスからも招いた」。
この協議前、ゼレンスキー大統領はキーウでラダキン軍総長と会談した。この秘密交渉をワシントンとキーウ双方がいかに重視し、交渉相手に神経を使っていたのかを示すエピソードだ。
交渉に当たってアメリカ側とウクライナ側との間に相違点は大きく分けて2点あった。1つ目は戦線の絞り込みだ。ウクライナ軍は現在、東部(ルハンスク、ドネツク両州)と、南部(ザポリージャ州やヘルソン州)の2方面で領土奪還作戦を行っている。これに対し、アメリカ軍は、南部方面に兵力、攻撃作戦を集中すべきと戦略変更を求めていた。
2023年内の作戦で欧米とすり合わせ
もう1つは、ロシア軍防御線の攻略作戦の変更だ。反攻難航の大きな要因となったロシア軍の強固な防御線を克服するため、ウクライナ軍は比較的中規模の部隊が分散して慎重に進めてきた。これに対し、アメリカ軍は地上部隊、戦車などの機甲部隊や空軍などすべての兵科を統合した大規模作戦を一挙に行うよう促したのだ。
アメリカ提案をまとめると、南部ザポリージャ州に集中的な攻撃を掛け、アゾフ海沿岸の要衝メリトポリの奪還を急ぐべきとの意見だ。
しかし、ウクライナ側はアメリカ軍の提案には納得しなかった。理由は2つある。1つは大規模な作戦が仮に失敗すれば、それで反攻自体が一貫の終わりになるリスクがある点だ。
もう1つは、自軍兵士の犠牲があまりに大きくなるリスクだ。協議でザルジュヌイ参謀総長はアメリカ側に対し「あなた方はこの紛争の意味がわかっていない」ときっぱり反論したという。
東部要衝バフムトの奪還を延期するわけにはいかないとも述べた。あるウクライナの軍事専門家は、アメリカ側提案の真意への疑念をこう率直に口にしていた。「南部に集中しろと言うことは、東部をロシアに差し出して、われわれに領土面でモスクワと妥協をさせようという意図ではないのか」と。
最終的には協議の結果、ウクライナ側はアメリカ側提案を拒否し、アメリカ軍は折れる形で、渋々ウクライナ側の立場を受け入れた。この結果が意味するのは、年内の反攻戦略を巡り、ウクライナとアメリカの間でとりあえず、立場のすり合わせができたということだ。早期の停戦実現に向け、アメリカが「タオルを投げ込む」可能性はなくなったと言っていいだろう。
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