ウクライナが奪還作戦実行で感じた「手応え」 「われわれに必要なのは助言ではない。弾薬だ」

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今後の反攻作戦の行方で最大の注目点はクリミア半島だ。ウクライナ軍にとって、クリミアのロシア軍にロシア本土からの軍事物資を届ける輸送ルート「陸の回廊」を遮断することが急務だ。

そのために回廊の要衝であるトクマク、さらにメリトポリの掌握を急いでいる。この回廊の遮断ができれば、ロシア軍に残された輸送ルートはロシア南部とクリミアを結ぶ、もう一つの大動脈であるクリミア大橋だけとなる。

ウクライナ軍は今後、この橋をミサイル攻撃などで通行不能状態にすることを図るだろう。こうして2つの輸送ルートを断ち切ることで、クリミアのロシア軍を完全に兵糧攻めにする戦略だ。

ゼレンスキー大統領は2023年8月末、ウクライナ軍が南部ヘルソン州とクリミアとの境界線に達した段階で、クリミアの解放についてモスクワとの間で外交的解決を図ることは可能との考えを示した。軍事力と交渉をミックスした解放策だ。この前提となるのが、この兵糧攻めの完了だ。

一方でウクライナは、この兵糧攻め以外にクリミア攻略に向け新たな動きも見せ始めた。2023年8月24日未明、クリミア半島西部に陸軍部隊と特殊部隊の合同部隊が初めて上陸作戦を敢行したのだ。

クリミア支配の認識崩す

合同部隊はタルクハンクト岬にあるS-400地対空ミサイルシステムを破壊して、撤収した。このミサイルシステムはクリミア全域の防空体制の要であり、ロシア軍にとって打撃は深刻だ。ウクライナのある軍事専門家は「クリミアはもはやウクライナ軍のシステム的攻撃の対象になった」と主張する。

筆者はウクライナ軍が今後も上陸作戦を行う可能性が高いとみる。実際、発表していなものの、すでに再上陸作戦を行ったとの未確認情報もある。近い将来クリミアの一部を占拠して、軍事的橋頭保を築く狙いがあるのではないか。

これが実現すれば、ロシア軍にとって軍事的脅威となるのは勿論だが、政治的にも大きな打撃となる。なぜなら、クリミアは2014年の一方的併合以来、ロシアが実効支配してきた地域だという国際的認識を変えることになるからだ。

一方で2023年8月に入ってから、ウクライナ軍はロシア国内への攻撃も波状的に開始した。モスクワへの自国製ドローン攻撃はもはや常態化しており、基地への攻撃も続いている。これには複合的な目的があるとみられる。

まずプーチン大統領の権威を揺るがし、政界での侵攻反対論の高まりを引き出すとの狙いがあるだろう。同時に、ロシアが侵攻を続ける限り、ウクライナが停戦を拒否し、反攻を続けるとの意志を米欧に示す政治的思惑もある。

さらにロシア国民に向けたメッセージもある。多くのロシア市民は、ウクライナで多くの民間人に犠牲を出しているロシア軍の侵攻の実態に目をつぶり、無関心な生活を送っている。

ウクライナの攻撃は「戦争とは双方向の軍事行動であり、戦争を始めた以上、必ず自分たちにも戻って来るとロシア国民に思い知らせるためだ」とウクライナの軍事専門家ジュダノフ氏は指摘する。

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