自分の所得の絶対値が増えていても、(より高い)他者と比較することによって幸福度が下がるという研究もあるという。例えば、賃金が増えても同じような仕事をしている同僚よりも上昇幅が小さかったことを知った場合はショックが大きいだろう。
「幸福度」という概念は幅広く、曖昧な概念である。しかし、「将来不安」や「デフレ・マインド」といった「ノルム」を払拭するには、日本人の「幸福度」を引き上げる必要があるだろう。
筆者は7月26日に『幸福感の統計分析』の著者である立命館大学総合心理学部准教授の髙松里江氏と議論する機会を得た 。髙松氏は、日本の幸福度が高まり難いことについて、現在の日本のような成熟した国では親の世代と比べるケースが想定されるとし、「親よりも豊かになれない」という感覚を幸福度を下げる要因として指摘した。
「横並び」かどうかより「横並びと感じる」かどうか
今回の賃上げ議論について、その際の議論も参考に「準拠集団」の観点から考えると、以下のような問題があるため今回の賃上げは幸福度が上がりにくい可能性が高い。なお、カッコ内は想定される準拠集団(比較対象)である。
- 多少の賃上げでも「親よりも豊かになれない」という状況は続く(親世代)
- アメリカなど他の先進国のほうが賃金上昇率は高い(海外)
- 今回の賃上げは「安い日本」が進んだ結果によるところが大きい(海外)
- 政府主導の「横並び」の賃上げである(周囲の給与所得者)
- 年金世帯は給与所得者と比べて賃上げの恩恵がない(給与所得者)
- 低所得者は高所得者と比べて賃上げの恩恵が少ない(高所得者)
ここで、「周囲の給与所得者」を準拠集団とする場合、全員が相対的に高い賃上げを実現するというのは論理矛盾ではないかと考える人がいるかもしれない。しかし、「準拠集団の理論」はあくまでも「印象」の議論であることが重要である。『幸福感の統計分析』でも、「準拠集団」との比較は想像に基づいている。
すなわち、実際に賃上げが「横並び」であるかどうかはそれほど重要ではない。「横並び」であるという印象を給与所得者が感じているかどうかが重要である。
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