ここで、給与所得者と年金所得者の消費動向調査「暮らし向き」の水準を比較すると、足元のインフレで大きく下がったのは年金受給者であることがわかる。
年金額は物価スライドによってインフレにある程度連動するものの、マクロ経済スライドによってインフレ率ほどは増えないため、年金受給者のほうがインフレをネガティブに捉えやすいのだろう。年金受給者の比率が増えているということは、日本経済全体として足元の実質賃金の目減りをネガティブに捉えている人が増えているということである。
また、低所得者ほど高インフレの負担が大きくなりやすい面があるため、消費動向調査「暮らし向き」は所得階層による差が拡大している。
年収「1200万円以上」の暮らし向きはコロナ前を回復しているが、他の階層はコロナ前を下回っており、低所得層ほど悪化が目立っている。給与所得者の間でも、賃上げに対する評価はわかれていそうである。
賃上げでも幸福度が上がらない理由
このような格差拡大は、全体の「幸福度」を低下させる可能性がある。
一般に所得が増えると幸福になる(幸福度が上がる)という関係があるが、このような関係が成り立たない例も数多く指摘されており、「幸福のパラドクス」と呼ばれている。
『幸福感の統計分析』(橘木俊詔、 髙松里江著)によると、「幸福のパラドクス」の背景には「準拠集団の理論」があるという。「準拠集団」とは、自分が置かれた状況を比較するときに、比較対象となる集団や人のことである。
すなわち、幸福感にとっては「準拠集団」に対する「自己」の「相対的評価」が重要であるという指摘である。
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