なお、これは日本の自動車メーカーだけが旧世代の半導体を使用しているわけではないため日本の失策のように書くのは逡巡する。どの自動車メーカーも人命にかかわるため慎重になる。ただ、日本のお家芸たる自動車は相対的に地位を下げている。
さらにTSMCに製造を委託する企業の約7割はアメリカ企業であるだけではなく、アップルをはじめとして、未来の先端半導体の開発を依頼するのもアメリカ企業だ。これは日本との差を考える際に示唆的だ。新製品を描けるビジョナリーな企業は日本ではないとすれば、半導体メーカーは、どこを向いて営業するだろうか。
日本の奮闘は実るか
なお、昨今の状況をまとめておこう。半導体は経済安全保障における重要な戦略物資だ。そこで日本政府からの熱心な要望を受けてTSMCの熊本への進出が発表されたのは2021年10月だった。投資額は1兆円を超える。最先端の回路幅ではなく自動車産業向けの旧世代が中心になるものの、供給の安定に寄与する。
サムスン電子も日本の横浜に半導体開発拠点・試作ラインを置くと決めた。またマイクロン・テクノロジーやソニーグループも日本での工場の新設を相次いで発表した。
半導体を巡る危機感は全世界で共有されており、アメリカが主導するIPEF(インド太平洋経済枠組み)では、半導体など参加国の重要物資入手を強化する協定に合意した。これには日本やアジア諸国など14カ国が参加する。中国は参加していない。この協定により合意国内での調達拡大が目指されるほか、品不足に苦しむ国への対応を協議する。
欧州19カ国も2020年12月に「欧州半導体イニシアチブ」を宣言し、最先端半導体の製造への投資を計画する。日本勢も負けずとトヨタ自動車、NEC、ソニーグループ、ソフトバンクらが出資したラピダスが2025年までに先端半導体を試作できるように動いている。さながら半導体戦争の様相を呈している。
これから半導体の潜在ニーズはさらに高まる。諸企業の日本への投資も結局は日本市場が魅力的であり続けるかにかかっている。買い手の日本企業にも改善が必要だ。そうでなければ日本進出等のきらびやかなニュースも空騒ぎに終わる可能性を秘めている。
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