なおこの動きは一例で、他にもアメリカ政権が半導体業界を牽制すると、ただちにアメリカの自動車メーカーがアメリカ政府の姿勢に賛同し半導体各社に早急な納入を求める動きが多々見られた。官民が一致していた。
とある装置メーカーのサプライチェーン統括者は感心するように、そして呆れるように「アメリカ政府は世界の半導体各社にアメリカ優先の圧力をかけていた。あれだけプッシュするんだから強いですよ」と述べている。
同時にアメリカ政府は、次々に半導体への投資を決定していった。研究や工場誘致、減税など、円換算で3兆円規模が次々に可決され、過激なほどだった。ただ半導体誘致にはそれほどの狂気が必要なのかもしれない。
日本には首相ができることはなんでもやるという姿勢がない
時計の針を進めるが、アメリカでの新工場設立に際し、2022年12月にTSMCが発表したアナウンスは示唆的だ。アマゾン、AMD、アップル、ブロードコム、NVIDIAといった名だたる企業らがTSMCのアメリカ工場建設について賛辞を連ねている。
そのいっぽうで、TSMC会長のマーク・リュウ氏は「アメリカに連れてきてくれて(has brought us here)ありがとうございます」と述べているのが印象的だ。自ら望んで進出したわけではないけれども、アメリカに呼んでくれてありがとうと。中国に配慮した内容だったかもしれない。経済合理性ではなく、政治的な色彩が濃かったと暗に述べているように私は思う。
TSMCは日本とアメリカに工場を設立している。ただ、先端の技術はさすがに台湾に残しているので、台湾の重要性は残るはずだ。この意味でTSMCはアメリカに完全に抱き込まれたわけではない。
いっぽうで日本はどうか。2021年の記者会見では、梶山弘志経済産業大臣(当時)は「自動車用の半導体の供給不足が生じていることは承知をしております。政府としては、日本台湾交流協会を通じて自動車業界と連携した上で、台湾当局に対し、メーカーの増産に向けた働き掛けを行っているところであります」とし、政府高官が台湾に渡って、台湾政府とTSMCにたいして日本向けの半導体製造を増産するよう要求した、と明かしている。
もちろん日本側も努力はしたと思う。ただ、ここで明らかになるのは、日本と違ってアメリカは大統領が直々に半導体を確保するよう動いている点だ。それ以前にも、トランプ前大統領が中国の半導体を封印しようとしていた姿勢は記憶に新しい。
それに対して日本には、首相ができることはなんでもやる、という狂気は見られなかった。
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