買い負けの現代的背景(2)日本企業の認識のズレ
まったく個人的な話だが、私は自動車メーカーの研究所で働いていた経験がある。自動車メーカーでは調達担当者が工場に出社して、製造ラインが止まっているときほど恐怖する瞬間はない。それは「あってはならないこと」が起きたのであり、さらに自分の担当している部材が原因ならば大問題だ。
自動車は数万点の部品で成立している。たった一つの部品であっても、なければ生産が止まる。ささいな部品であっても、重要部品であっても、止まる意味では等価だ。製造ラインが止まるのは、めったになかったことだから「寿命が縮まる」といっていた人もいた。
逆にいえば、それだけ「納期通りに部材が入って当たり前」の世界だ。自動車産業は自身を中心に仕入先が回る“天動説”的な考えをもっている。自動車産業では垂直統合といって、自動車メーカーがピラミッドの頂点として君臨していた。
ただし、自動車産業は半導体メーカーとソリが合わない点がある。
1つ目は、商習慣だ。
自動車産業では、確定発注数量が決まる前に、事前情報を仕入先に提示する。現実にはこの内示を把握した瞬間に動き出さなくてはならない。
自動車メーカーは、ジャスト・イン・タイムで仕入先から納品してもらっている。直接、自動車メーカーに納品するこの仕入先をティア1と呼ぶ。このティア1が半導体を購入し、部材を組み立て自動車メーカーに供給する。自動車メーカーが数量の見通しをティア1に伝え、その見込みが甘いとティア1は半導体の注文をキャンセルせざるをえない。コロナ禍などで不景気になると調達した半導体が在庫として積み上がってしまい、経営にダメージを与えるからだ。
つまり半導体の調達は自動車産業とそもそも相性が悪いといえる。自動車メーカー側はギリギリに発注して、ジャスト・イン・タイムで納品されるのに慣れているし、それができる環境に甘んじてきた。
ただこの甘えは、自動車産業に限った話ではない。私たちは半導体のサプライチェーンなど真剣に考えてこなかったし、半導体が命運を握るとまで考えた人はいなかった。かつて日本は製造業大国で、かつ右肩上がりだった。購入量は世界随一。ただし、現在では中国などのアジア各国が力をつけてきた。必然的に日本の相対的なシェアは下がる。さらに日本は少子高齢化と経済成長の停滞で、ここから購入量が上がるとは考えにくい。
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