ザポリージャ原発、破局を回避する手だてはあるか 露ウ両軍の兵力引き離しへ国際社会は総力結集を

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軍事拠点として利用価値がある限り、ロシアが意図的に原子炉の爆破など破壊工作を試みることは考えにくい。他方、ウクライナ側も、自国領土に放射能被害を及ぼしてまで、原発を奪還するメリットもないだろう。しかしこれは両軍が合目的的に行動した場合のことであり、指揮系統の乱れや、自暴自棄な行動、誤爆などの可能性はある。

それ以前に同原発ではスペア部品の供給が途絶え、必要なメンテナンスや点検もできていない。今年6月のカホフカダム決壊後、冷却水の安定供給にも懸念が生じている。7月24日時点でIAEAは「数カ月分の冷却水がある」との見解を示しているが、冷却池の水位低下を認めている。爆破されずとも、今の状態は事故の一歩手前であるとみるべきだ。

IAEAはロシア・ウクライナ両政府に対して同原発への兵器・兵士の配備や同原発への攻撃を禁止する「非軍事ゾーン」設置を提案してきた。

しかし、2023年7月現在この提案は実現できていない。ロシア、ウクライナ双方がこの非軍事ゾーンをめぐる合意を相手側が妨害していると批判している。

原発から両軍の引き離しを

「非軍事ゾーン」を設定し有効に機能させるには、最低でもロシア軍による兵器の撤去、ウクライナ軍による軍事的奪還作戦放棄を保証することが必要になる。IAEAの仲介だけではこの提案が実現できないことは明らかだ。国際社会全体からの両政府への強い働きかけが必要だ。しかし、穀物合意をめぐる仲介努力に比べて原発非軍事ゾーン合意に向けての各国および国連の積極的な動きは見えない。

そこで筆者は以下のようなことを提案したい。

現在、ロシアと原子力分野での取引を行う国はまとまって、ロシアに同原発からの撤退を要請すべきだ。例えば、2022年の穀物合意の仲介で役割を果たしたトルコでは、ロスアトムによる原発の建設が進められている。

トルコの場合、ザポリージャ原発が炉心溶融などの最悪の事態に陥った場合、放射性物質の飛散により、国土が被害を受ける可能性がある。被害国になりうるトルコを含め、ロシアと原子力分野で協力関係にある国は、ザポリージャ原発の軍事制圧を続けるのであれば、ロシアおよびロスアトムとは取引を凍結するくらいの強い働きかけをすべきだ。

一方、ウクライナを軍事支援しているG7、北大西洋条約機構(NATO)諸国は、「武力による原発奪還はしない」という法的拘束力のある確約をウクライナから取り付ける必要がある。ザポリージャ原発がウクライナ軍に奪還される可能性がある限り、ロシア軍の撤退は考えにくいからだ。

これは侵略された側のウクライナに対して不当に厳しい要求と見えるかもしれない。しかしウクライナによる武力奪還が成功する場合、敗走する側による自暴自棄な破壊行動を誘発する危険がある。最悪の事態を回避するためには、「非軍事ゾーン」の設定が急務だ。そのためには、ロシアによる軍事支配をやめさせるとともに、ウクライナにも武力による奪還を断念させることが必要だ。ウクライナにとっては厳しい要求となるが、世界を破局から救うには現状ではそれ以外に方法はない。

尾松 亮 作家・リサーチャー

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Ryo Omatsu

1978年生まれ。東京大学大学院人文社会研究科修士課程修了。2004~2007年、モスクワ大学文学部大学院に留学。ロシア経済情報誌『ロシア通信』『ダリニ・ボストーク』通信編集長を経て、ロシアCIS地域の社会経済調査・コンサルティングに従事。エネルギー問題を中心に、ロジスティクス、AI、環境問題など幅広い分野で調査経験を持つ。著書『チェルノブイリという経験』『廃炉とは何か』(ともに岩波書店)他。

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