前出のプラチコフ氏は、ロシアには「ウクライナ軍が砲撃しにくい後方軍時拠点」としてザポリージャ原発を利用する意図があると指摘する。
プーチン大統領はウクライナを攻撃するために同原発にロシア軍の兵器を配備していることを否定している。その一方で原発警備のために軍用車両(タイガー戦車)があることは認めている(2022年9月7日、東方経済フォーラムにおける発言)。他方、IAEAは、同原発敷地内に兵器(military equipment)が配備されていることを確認している。ロシア軍が実効支配継続を狙うザポリージャ州における軍事拠点として同原発を利用していることは間違いない。
しかしこの「軍事拠点転用」はうまくいっているとはいえない。というのも、原発はそれほど「砲撃されにくい拠点」ではないからだ。
原発をめぐり両軍が攻防戦に突入
ロシア、ウクライナ双方が相手側によるものと批判しているが、同原発およびその安全確保に不可欠な送電線が繰り返し攻撃され、損傷していることは事実だ。IAEAの報告書によれば、原発周辺に地雷が仕掛けられていることが被害を拡大し、送電線の復旧を妨げている。
プーチン大統領が主張するようにロシア軍が直接同原発を攻撃していないことが事実だとしても、地雷を周囲に設置するなどして原発を危険にさらしていることは間違いない。それだけでも、原発を攻撃しているも同然であり、ロシア軍の責任は大きい。
一方、日本のメディアの報道ではウクライナ軍が原発周辺に兵力を振り向け、砲弾を撃ち込んでいることについてはほとんど触れられていない。イギリスTimes紙の記事(2023年4月8日付)によれば、2022年10月19日にウクライナ軍によるザポリージャ原発奪還作戦が実行されたことを、ウクライナの特殊部隊や情報機関のメンバーが認めている。
Times紙によれば同作戦において、アメリカから供与された高機動ロケット砲システムHIMARSも使用されており、アメリカから提供された位置情報が利用された可能性も指摘されている。この奪還作戦はロシアの反撃で失敗に終わり、原発施設内の攻防とはならなかったが、原発周辺で砲撃の応酬が続いたことは間違いない。
つまり原発を支配し兵器を配備しても相手方から攻撃され、盤石な拠点たりえない。とはいえ、ロシア側としてはウクライナ軍による原発奪還を許せば、ウクライナ東部と南部を結ぶ要衝であるザポリージャ州奪還への弾みをつけかねない。このように引くに引けない状況で、経済資産としては守る価値のなくなった原発の支配が続いている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら