「黒海穀物協定」停止でプーチンが得るものはあるか 丸紅経済研究所・榎本裕洋所長代理に聞く

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ウクライナ・キーウ近郊の農場で、夏の収穫を迎えた小麦の状態をチェックしている(写真・2023 Bloomberg Finance LP)
2023年7月18日、主にウクライナ産の穀物を黒海経由で輸出する国際協定「黒海穀物イニシアチブ」(以下「協定」)はロシアが延長に応じず、失効した。ロシアは経済制裁の対象ではないロシア産の穀物や肥料の輸出に対する制約があるなどと主張し、「ロシア関連の合意が履行されていない」と不満を言い続けてきた。
今回の協定失効が、今後のウクライナ情勢や世界の食糧事情にどう影響するか。現状と展望を、ロシア事情や世界の穀物事情に詳しい丸紅経済研究所所長代理の榎本裕洋氏に聞いた。

余裕がある世界の小麦生産量

――ロシアが「黒海穀物イニシアチブ」の停止を発表したことで、今後のウクライナ情勢や世界の食糧事情に悪影響を与えるのではないかと懸念されています。

世界の穀物市場の現状をまずはみてみよう。

アメリカ農務省が7月に発表したデータでは、2023~2024年度の世界の小麦生産量は約7億9667万トンと、過去最高を予測している。2022~2023年度は7億9020万トンとなる見込みだ 。コーンも2023~2024年度の全世界生産量は12億2447万トンと過去最高の予測だ。

また2023~2024年度の世界小麦(小麦粉などの製品を含む)輸出量は2億1440万トン、世界コーン輸出は1億9826万トンと、こちらも高い水準が予測されている。

結果、世界の穀物供給は高水準かつ増加傾向にあり、価格も概ね安定している。

【記者註】アメリカ・シカゴ商品取引所では、7月17日にロシアが協定の停止を発表したものの、1ブッシェル当たり6.5ドルとそれほど上昇しなかった。2022年2月ウクライナ侵攻直後はそれまでの同8ドル前後から13ドル前後にまで上昇したが、当時と比べても現在はそれほど目立った値動きはない。

 

――ロシアのプーチン大統領は「協定によりウクライナから3280万トンもの穀物が輸出され、うち70%以上がEU(欧州連合)を含む平均所得以上の高所得国に輸出された。一方エチオピアやスーダン、ソマリア、イエメン、アフガニスタンといった国では3%以下、100万トンにも満たなかった」と主張しています。

協定は合意されてから120日ごとに更新され、現在では60日ごとに更新されている。ロシアはこれまで、更新直前になるとほぼ必ずごねてきた。今回は「停止」したが、市場では「またロシアがごねている」といった雰囲気が支配的だ。

ロシアが協定に復帰するタイミングは2つ。1つは2023年7月27日、ロシアのサンクトペテルブルクで行われたロシア・アフリカ首脳会談のタイミング。しかしここでは復帰しなかった。

もう1つのタイミングは、8月中にも行われるとみられているプーチン大統領のトルコ訪問時だ。

――トルコはこの協定において、仲介者的な重要な役割を担っていますね。

ロシアにとってはトルコが、またプーチン大統領にとっては(トルコの)エルドアン大統領が数少ない戦略的パートナーとなっているのは確かだ。例えば、2023年7月上旬にウクライナの「アゾフ大隊」指揮官5人がトルコからウクライナへ帰還した。しかしこれに対するロシアの反応は抑制的だった。

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