「スト権確立」のそごう・西武、売却劇は重大局面に 当事者が参加した初の全体会合でも物別れ
コロナ禍を脱しつつある百貨店業界は足元で急回復している。高島屋の2023年3~5月期における百貨店事業は、外国人観光客や人流の回復を取り込み、コロナ直前の2019年同期比で2倍以上の営業利益65億円を稼いでいる。
そごう・西武も同様だ。セブン&アイHDは今2023年度より百貨店事業の業績を開示していないが、そごう・西武の広報担当者によると、「(同社単体の)3~5月期決算は前期比増収増益」であり、6月における主力の衣料品や高級雑貨、食品の売上高は、2019年同月比の95%の水準にまで回復している。
しかしその一方、足元では「再建策」であるはずの売却計画そのものが、むしろ事業の逆風になりつつある。
「池袋西武がどうなるか分からない状態が1年以上も続いているため、取引先との契約更新やテナントの出店が止まってしまう、といったことが実際に起こっている」(寺岡委員長)。何も聞かされていない社員らも、取引先や顧客からの不安に説明ができない状態にあるという。
7月21日にはセブン&アイHDの井阪隆一社長、フォートレス日本法人の山下明男代表のほか、池袋西武の一部底地を所有する西武HDの後藤高志会長、地元である豊島区の高際みゆき区長らが西武HD本社に集まり、合意に向けた会合がもたれた。
今回の会合には初めて、当事者であるそごう・西武の林拓二社長、ヨドバシHDの藤沢昭和社長の両名も議論の席に着いた。また会合前には一部メディアが、「ヨドバシHDが池袋西武の低層階への出店を断念する」と報じていたため、事態が進展するとの見方もあった。
しかし会合は、完全な平行線をたどったようだ。「われわれはこの計画の立案に一切かかわっていない」。冒頭にそごう・西武の林社長はそう語り、強い口調で売却計画への反対を表明したという。そして最後には西武HDの後藤会長が、「事業会社のトップと組合が反対している計画を進めるわけにはいかない」と発言して会合を終えた。その間、ヨドバシHDが低層階への出店を取りやめる新たな案が示されることはなかった。
事情に詳しい関係者は、「ヨドバシが低層階に出店するかしないかが問題なのではない」と語る。「池袋西武の過半にヨドバシが入居すれば、もはや百貨店業態を維持することはできない。当然、従業員の雇用に影響する。そもそも計画では、ヨドバシが入居する以外の部分の改装費を誰が持つかすら決まっていない」(同)。
豊島区と組合に対して計画を説明へ
この全体会合の後、井阪社長をはじめとしたセブン&アイHD関係者、フォートレスの山下代表らが集まり、今後の対応を協議したもようだ。セブン&アイHDは8月上旬までに、豊島区や駅前商店街の関係者、そして組合に対して売却計画を説明する場を設ける方針。セブン&アイHDはこれまで組合に対して、直接の使用者ではないことなどを理由に一切の説明を拒否してきた。その点では一歩前進ともいえる。
しかし、組合にとっては「計画そのものを見直す以外になく、条件闘争はありえない」(前出の関係者)。セブン&アイHDとの間にはそれほど隔たりがあるということだ。その中で「組合に説明した」ことをもって計画を強行しようとすれば、組合のスト権の行使が現実味を帯びる。
夏休みシーズンで人出が増える時期に異例のストのおそれ。1年以上にわたる売却劇は、真夏に重大局面を迎えている。
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