「ケガや空腹に気づかない」感覚鈍麻という"痛み" 知られざる「痛みを感じない子たち」の苦しみ
また、彼らは口をそろえて「空腹を感じない」と訴える。
「食べたいと思うものがなければ、食べないままでいい」「空腹を感じず、いつの間にか低血糖に陥っていることがある」「(食事は)必要だから摂らなくてはという、義務感、強制感しか感じない」「『お腹が空いてきた』という感覚がなく、気づくのは我慢ができないほどになってから。腹八分目もわからないので、食べると動けなくなる」……ということだ。
これらのほかにも、「体調が悪くなっていることに気づけない」「尿意を感じづらくトイレに行くのを忘れる」「距離感がわからずぶつかってばかりだが、ぶつかっていること自体に気づかない」「他の人が熱くて触れない皿を平気で持ち、あとで皮膚が赤く腫れたりする」など、どれも日常生活を脅かすほどの苛烈な体験談が、アンケートには連なっている。
誰もが抱えうる“感覚”の問題だった
現状、「服のタグが気になる」「どうしても無理な食べ物のニオイや食感がある」「蛍光灯の光が眩しすぎる」といった、いわゆる「感覚過敏」については、学校などで集団生活を送る子どもを中心に、多くの人が自らの、あるいは家族の抱える“困りごと”として認識しつつある。
ニュース記事などで取り上げられることも多く、高まりつつある認知と、強い関心を伺い知ることができるだろう。
ところが、同じ感覚特性である、この「感覚鈍麻」について認識している人は、いったいどれだけいるだろうか。いまだその名称、概念すら知らない、といった人も多いかもしれない。加藤さんが主宰する「感覚過敏研究所」で医療アドバイザーを務める児童精神科医の黒川駿哉氏は、「感覚鈍麻」について、以下のように説明する。
「脳神経が刺激に反応する(刺激を認識する)最小の刺激量を『閾値(いきち)』といいます。閾値には個人差があり、たとえば感覚過敏の人はこの閾値が小さい。だから、わずかな刺激でも反応するのだと考えられています。
一方、感覚鈍麻の人の閾値は平均より大きく、(感覚として)感じ取れる量まで刺激の量がなかなか到達せず、つまり鈍感であると考えられます。
ただし、感覚過敏や鈍麻は、閾値だけによって決まるわけではありません。音の高さの違いの細やかさや、色の認識の細かさなど、目や耳、皮膚など『感覚器』の刺激の幅への“感度”の特性であるケースや、刺激を統合して処理する脳の特性である場合など、さまざまな理由が考えられます。
あるいは、刺激が過敏すぎて刺激を処理しきれず、感覚鈍麻になるケースも。刺激に対応できず無反応になった結果、まるで刺激を感じていない=感覚鈍麻のように見えるのです」