台湾の「現状維持」を「独立」とみなす中国の論理 「台独」と「独台」は異句同義なのか

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そこで中国が広義の「台独」とみなす台湾側の主張を振り返る。李登輝元総統は1999年7月9日、ドイツの放送局「ドイチェ・ヴェレ」とのビデオインタビューで、台湾と大陸の関係を「国と国」、ないし「少なくとも特殊な国と国の関係であり(略)『1つの中国』の内部関係ではない」と述べた。「2国論(両国論)」といわれるこの主張は、まさしく「独台」の典型であろう。

つまり台湾建国という「台独」ではなく、「現状維持」という「独台」路線である。また、陳水扁元総統が2002年8月2日、世界台湾同郷連合会第29回東京年会でのビデオ談話で「台湾は1つの独立主権国家である。台湾と対岸の中国は一辺一国と明確に分かれている」と表現した「一辺一国」論も、「台独」ではなく「独台」路線だ。

「二国論」「一辺一国」も現状維持路線

「独台」というレッテルが張られた有名なこの2つの用語こそ、李登輝と陳水扁による「現状維持」路線と言い換えてもいいだろう。

蔡英文氏はどうか。蔡氏は2019年10月の「建国記念日」演説で、「中華民国」ではなく「中華民国台湾」という「名称変更」を提起した。ただ法的変更ではなく、政治的メッセージにすぎない。台湾外交部は変更について「中華民国台湾は主権を有する独立した民主国家であり、主権は2350万人の台湾人民に属する」という解釈を提示した。

蔡氏の「中華民国台湾」は「中華民国」とは異なり、台湾当局が実効支配している台湾地域のみの主権を有する「国家」という主張だ。この認識は「二国論」と「一辺一国」も共通する。蔡氏の場合「中華民国」という「1つの中国」を前提にした「国名」と「憲法」をそのまま用いれば、「中国の主権は台湾に及ぶ」という中国側論理に対抗できない、含意があると思われる。

次に問われるのは台湾の「現状」とは何かだ。中国側の現状認識はどうか。2005年3月の「反国家分裂法」第2条は「世界に中国は1つしかなく、大陸と台湾は同じ1つの中国に属しており、中国の主権および領土保全を分割することは許されない」とし、統一していない現在も、中国の主権は台湾に及んでいるという認識を提示している。

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