台湾の「現状維持」を「独立」とみなす中国の論理 「台独」と「独台」は異句同義なのか
これに対し、前出の記事を執筆した小笠原欣幸氏は「『台湾独立』とは、台湾を統治する中華民国を解体して、台湾共和国あるいは台湾国を建国することを指す」と定義する。この定義は、極めて狭義の解釈であることがわかる。
一方の中国側は、「台湾は中国の領土ではなく、台湾問題は中国の内政ではない」「台湾問題の国際化」「台湾住民自決論」など、台湾与党の民主進歩党(民進党)が党綱領でうたう主張を含めて「台独」理論に相当すると広義に解釈する。
ここで注意したいのは、小笠原氏が「民進党は1991年制定の綱領で台湾共和国の建国を掲げたが、1999年の党大会決議(台湾前途決議文)によって中華民国を続ける現状維持に転換」したと書き、「台独」路線を「現状維持」路線に転換したことを強調している点だ。
「台湾共和国」を建国して、狭義の「台独」を実現するには「1つの中国」を前提に組み立てられた「中華民国憲法」の改訂が必要だ。しかし改憲には立法院(4分の3の出席で、4分の3の賛成)と公民投票(有権者の過半数の賛成)の高いハードルをクリアしなければならない。さらに日米両政府とも、台湾独立を支持しない「1つの中国」政策を採っているから、外交承認はしないとみられる。
そのため民進党は「台湾独立は国内政治的にも国際政治的にも不可能」という判断から、「現状維持」路線へと転換したとみるのだ。
改憲手続き論からすればその通りだが、民進党が「台湾前途決議文」を採択したのは、第1に翌2000年3月の総統選挙を有利に戦うため、同党の「台独」イメージを薄めるうえで、「台湾共和国建国」が綱領にあるのは不利との政治的判断が働いたためだった。
第2に「現状維持」路線に転換したにもかかわらず、陳水扁氏は2008年3月の総統選挙で「台湾名義による国連加盟」の是非を問う国民投票を実施(不採択)した。現状維持路線ではなく、狭義の「台独」路線に執着したのだ。民進党の政策の不徹底ぶりがうかがえる。
「分裂分治」の固定化
では、「すでに独立した台湾」(独台)という認識を中国側はどう定義しているのか。先に引用した「“台独”と“独台”」は、「台湾当局が(両岸の)『分裂分治』を堅持し、『1つの中国、2つの対等な政治主体』ないし『段階的に2つの中国』政策を追求する台湾当局の路線を指し『B型台独』ともいう」と書く。つまり「台独」の一形態とみなすのだ。
「独台」の具体的な主張として、①対内的には憲法修正によって、総統直接選出、台湾省廃止、単一「議会」の実施により、台湾の「主権」と「国家」形態を強調、②「現在の統治権は中国大陸には及ばない」との口実から「中華民国は台湾の主権独立国家である」との主張を展開、③両岸の一時的分離状態の、固定化、“合法化”、永久化を意図、④「独台」は当局が推進するパッケージ化された分離主義路線であり、「台湾独立」と本質的な違いはない、と書くのである。
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