「安保3文書」決定は台湾有事を煽る外交敗北だ 日本の衰退を加速させる一方の防衛費増額

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訓練中の自衛隊員。防衛費増額で日本の安全保障環境が変わろうとしている(写真・2021 Bloomberg Finance LP)

岸田文雄政権は2022年12月16日、5年間で43兆円もの莫大な防衛費からなる国家安全保障戦略(NSS)など安保3文書を閣議決定した。軍事抑止神話に基づく大軍拡は、逆に台湾海峡の緊張を高める「外交敗北」だ。大軍拡は日本衰退を加速させる可能性があり、「失われた30年」脱却のためには、中国との経済関係の将来を見据えた信頼関係の再構築も選択肢に入れる必要がある。

閣議決定という悪例を踏襲

まず安保関連3文書の骨格をおさらいする。

① 防衛予算を5年間に国内総生産(GDP)比で倍増
② 敵基地攻撃能力(スタンド・オフミサイル)を保有。国産型の改良と同時に、アメリカ製巡航ミサイル「トマホーク」を購入
③ アメリカ軍と自衛隊の「相互運用性」を強化、台湾有事の際、アメリカ軍と自衛隊の一体運用を可能にする組織の創設。陸海空の3自衛隊部隊の統合運用を担う「統合司令部」を設置
④ 対中国認識を従来の「懸念」から「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と変更
⑤ 防衛移転3原則(武器輸出)の見直しの検討
⑥ サイバー攻撃を防ぐため、攻撃元を監視・侵入などで対処する「能動的サイバー防御」の採用

これら劇的な政策変更が、国会での議論や承認をいっさい経ない閣議決定で行われたことは、記憶にとどめる必要がある。安倍晋三元首相がやはり憲法違反の疑いがある「集団的自衛権」の行使容認を2014年、閣議決定で押し切った前例の踏襲だ。

憲法の条文を変えることを国民投票で問う「明文改憲」ではなく、「解釈改憲」で事足りる「悪しき前例」が、またも上書きされたのである。メディアは、防衛費増額の財源論をめぐる政府与党内の対立に焦点をあてる報道をしたが、「争点ぼかし」でしかない。

次ページ「インド太平洋戦略」が総合テキストだ
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