台湾の「現状維持」を「独立」とみなす中国の論理 「台独」と「独台」は異句同義なのか

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台湾側の現状認識は、馬英九元総統の「中華民国は主権独立国家」という現状維持路線も、「二国論」「一辺一国」「中華民国台湾」と大差ないように思える。そこで中国側は台湾の各リーダーに、(中台)両岸関係の「政治的基礎」として「92年コンセンサス(合意)」の受け入れを迫るのである。

現状認識の相違を「1つの中国」容認によって埋めようとする「踏み絵」だ。「92合意」については北京が「両岸は『1つの中国』原則を堅持」で合意したと主張するのに対し、台北は「『1つの中国』の解釈は(中台)各自に委ねる」(「一中各表」)合意だったとして解釈は異なる。

しかし国民党も現状維持をうたう以上、「92年合意」受け入れによって「1つの中国」を担保し、民進党政権との違いを際立たせたい中国側の思惑が読み取れる。馬英九政権は、「92年合意」を受け入れたことで、両岸関係は大幅に改善し交流が復活した。

一方、蔡政権は2016年の総統就任式で「92合意」は認めず、両岸交流は完全にストップし、政治対立は「敵対関係」と言えるほど悪化した。

「独台」も武力行使の対象

前述の「反国家分裂法」の第8条は、「台独分裂勢力」への非平和的手段(武力行使)を認める条件として、①台湾を中国から切り離す事実をつくり、②台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変の発生、③平和統一の可能性が完全に失われたとき、の3条件を挙げた。

「重大な事変の発生」がどんな事態を想定しているのかなど具体的内容は曖昧だが、「台独」と「独台」を区別していないことは注意を要する。とくに③は、「現状維持」路線が「分断分治」の固定化につながることを想定しているとも受け取れる。

中国が「独台」を台独の一種とみなしている以上、「台独の定義を曖昧にしている」と批判したところで、意味はない。中国が問題にしているのは現状維持という名前の広義の「台独」だからだ。

岡田 充 ジャーナリスト

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おかだ たかし / Takashi Okada

1972年共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て、2008年から22年まで共同通信客員論説委員。著書に「中国と台湾対立と共存の両岸関係」「米中新冷戦の落とし穴」など。「岡田充の海峡両岸論」を連載中。

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