「君たちはどう生きるか」に若者が共感する深い訳 吉野源三郎とジョブズが訴える「人生の主体性」

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本書全体を通して見ると、そこで問われているのは、人としての「覚悟」ではないでしょうか。自分の人生に対して真摯に向き合おうという。

でも、その「覚悟」は一体どこから出てくるのでしょうか。誰かから「覚悟を持ちなさい」と言われたら出てくるものなのでしょうか。

ラテン語で「メメント・モリ」という警句があります。直訳すれば、「死後の世界を想像せよ」ですが、もともとは「どうせいつかは死ぬ身なのだから、できるだけ今を楽しもう」という意味でした。

これが、キリスト教の影響を受けて変化し、今では「自分が必ず死ぬことを思うと、今この瞬間の大切さがわかってくる」という意味に解されています。自分がいつか必ず死ぬことを考えれば、腹をくくれるということです。

第2回で紹介した映画『生きる LIVING』の見出しには、「最期を知り、人生が輝き出す」とありますが、まさにその通りだと思います。

死を意識することは、そのコントラストとして生を意識することでもあります。死を思う(メメント・モリ)ことで、初めて生が輝き始めるのです。もし死がなければ、生の完全燃焼というのもありえません。

スティーブ・ジョブズの「歴史的スピーチ」

アップルの創業者スティーブ・ジョブズの歴史的名スピーチをご存知でしょうか。

2005年に、スタンフォード大学の卒業式で行ったもので、彼はその中で、死について次のように語っています。

「自分はまもなく死ぬという認識が、重大な決断を下すときにもっとも役立ちます。なぜなら、永遠の希望やプライド、失敗する不安……これらはほとんどすべて、死の前では何の意味もなさないからです。そこでは、本当に大切なことしか残りません。(中略)死は私たち全員の行き先です。死から逃れた人間は一人もいません。それは、あるべき姿なのです。おそらく死は、生命にとっての最高の発明です。それは生物を進化させる担い手です。古いものを取り去り、新しいものを生み出します。(中略)あなた方の時間は限られています。だから、他人の人生を生きることで時間を無駄にしないでください。」

あえて誤解を恐れずに言えば、「死」こそが人間の徳のひとつである「勇気」の源になっているのだと思います。

死のない世界をディストピア(反理想郷)として描いた小説や映画はたくさんあります。

例えば、手塚治虫の漫画『火の鳥 未来編』には、不死鳥である火の鳥の血を飲むことによって、不死の体を得てしまった登場人物の果てしない苦しみが描かれています。

そして、これは私自身が死と向き合った経験からも言えることでもあり、それが今、私が生きるうえでの原点になっていると思うからなのです。

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