樋口恵子×上野千鶴子「最期の迎え方」と「墓問題」 謝らなきゃいけないこと、いっぱいやってきた

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樋口:私はこんなふうだから、比較的陽気に誰とでもおつきあいしているように見えるけれど、見かけより傷つきやすいヤワな魂の持ち主です。だから、ちょっと言われたこととか悪口というのを鮮明に覚えていて、それに利息をつけて膨らませていってるわけですよ。

まあ、恨みつらみの感情が生きるエネルギーになっているような人もいるから、それが一概に悪いとは申しませんけれど、ずっと自分のなかに抱えていると性格も暗くなるし、身の処し方も重くなるでしょう? だから、一時的に丸めて棚上げしておこうと、あるとき決めたの。そのうちに忘れることもあれば、向こうが先に死ぬこともあるわけで。それでも許せなかったら、死んだあとで化けて出る(笑)。

上野:はははは。

樋口:結構楽しいわよ。あとで化けるから「あと化け1号」、「あと化け2号」って、相手に順位をつけているの。そう言ってるうちに向こうが死んじゃったりして時々順位が変わったり、そのうちにそんなに恨まなくてもいいやって気持ちになったりもして。

あとで化けることに決めたことで、本当に気が楽になりました。それに情勢が変わると、あと化けの相手がニコニコして再び関係が良くなったりするようなことも起こるわけ。そのときになって、ああ、あのとき怒鳴らなくて本当によかったと心から思うんです。

つまり人との関係って、いつどこでどう変わるかわからない。世話になることもあるかもしれない。そもそもの腹立ちの原因も、よく考えれば自分の一生の節操にかかわることでも何でもない。そこから、たいていのことは聞き流すテクニックが身につきました。勝手にハラを立てるのは自分の未熟さです。

上野:わたしも、わりと傷つきやすいんですよ。だけど、一方で物忘れがすごく激しいので、昔この人に何かひどいことをされた気がするけど、あれ、なんだっけ? と、思い出せない(笑)。

樋口:素晴らしい美徳ね。忘れっぽい、健忘症っていうのは美徳ですよ。

上野:おかげさまで、自分の恥ずかしい過去も忘れられます(笑)。若気の至りで人に謝らなきゃいけない悪いことをいっぱいやってきましたから、人に謝らせるなんて恐ろしいことはできません。

先日、田中美津さん(ウーマンリブ運動の先駆者)と話していて、彼女が「長生きも芸のうち」って言うの。どういうことかというと、自分が死んだら、誰がどんな悪口を言うか、だいたいわかると。だから、悪口を言いそうな人よりも長生きして死のうって。それが彼女の言う「芸」。その反面、誰が何を言うか、実際のところをあの世から観察したい思いもありますけどね。

お見舞いは「上から目線」?

樋口:小学校から大学まで一緒だった同級生がいるんです。彼女は私より少し早くにヨタヘロ(なにをするにもヨタヨタ・ヘロヘロする世代)になられてしまい。息子さんによると、今は施設でほぼ1日中寝たきりで過ごしているらしいの。となると、お見舞いに行くなら今しかないでしょう?

ただ、お見舞いって絶対的に“上から目線”なのね。若いときは回復するという見込みがあるけれど、年寄りになるとそうはいかない。すると、見舞いに来る者が上位で、見舞われる者がどうしても下位になる。本当に、目線と同じよ。見舞われる側がどういう気持ちなんだろうと思うと、ちょっと躊躇しちゃうのね。

だから、まずは行っていいかという手紙を本人と息子さんとに出そうと思ってます。それでいいと言われたら、私の気持ちとしては、一言お礼が言いたいのよ。

上野:そのお礼は、直接会って言わなきゃいけないものですか? お手紙ではなくて?

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