世界で大流行する「やせ薬」は本当に悪者なのか 「GLP1ダイエット」は科学的にアリかナシか

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私も実際、これまでさんざんダイエットに失敗してきた患者さんが、GLP-1作動薬を使って減量に成功したケースを数々見てきた。

ある患者さんは、「久住先生、『これくらいの量しか食べなければ、ちゃんと体重が減るんだ』ということがわかりました」と喜びを伝えてくれた。この言葉には、含蓄がある。「これまでもダイエットしているつもりだったけれど、食事の量を十分減らせていなかった」ということを、自身で認識されたのだ。つまり、体重をコントロールするのに大切な知識を身につけたといえる。

GLP-1作動薬が「悪者扱い」されがちなワケ

というわけで、「GLP-1作動薬によるダイエットは、体にいい」というのが科学的見解であり、医師としての実感だ。

ではなぜ、批判が高まるのだろう?

もちろん副作用もなくはない。例えば、胃腸の動きがゆっくりになるので、胆石や、胃酸の逆流(逆流性食道炎)、便秘などが知られている。また使い始めの1週間ほどはムカムカ吐き気がしたり、だるさを感じることがある。

だから慎重に使うべきは当然だ。とはいえこうした副作用は、医師としっかり相談して対処すれば、多くの場合しだいに問題なくなる。また、週1回注射をしたり、起床時すぐに飲んで30分禁飲食の必要があるなど、投薬方法が面倒だが、それも批判につながるとは思えない。

問題はそれ以外に、2つほど考えられる。

まず、GLP-1作動薬が高価な薬であることだ。ペプチドという物質でできており、製造が難しく高コストになるので、価格に反映せざるをえない。

低所得国では肥満は社会問題なのだが、日本でも、肥満は低所得者に多いことが厚労省調査でわかっている。「お金持ちだけがラクしてやせられる薬」というイメージが、批判を生んでいるのかもしれない。

ただし価格の問題については、ペプチドではなく化合物で同様の効果が得られる薬が開発されつつある。化合物なら大量生産できるのでコストは低下し、保管や流通も容易になる。この新薬の効果や安全性が確認されれば、現在のGLP-1作動薬と置き換わっていくだろう。

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