支配層の忠誠を金で買う「プーチン」の怯える日々 粛清に踏み切れない脆弱な支配基盤
「大統領はとても理性的に動いている」。ロシアの政治学者エカテリーナ・シュルマンは「彼は自身の命と政治生命を守ることに全力を傾けており、そのためなら何でもする用意がある」と話す。
シュルマンによると、プーチンは容赦ない人物という評判に反し、今のところ「アメとムチ」のアメをばらまく戦略で失敗に終わった反乱への対応を行っているもようだ。実際、クレムリンが治安部隊を称える豪華な式典が先日行われ、政府の命令で、兵士、警察官、その他の治安当局勤務者に対する10.5%の昇給が公式に実施されている。
シュルマン氏は、反乱への対応として「大々的な弾圧を振りかざせないほど、(大統領の支配)システムは衰え、もろいものになっている」と断じる。
確かに、プーチンは今回の反乱鎮圧を通じて自らの基盤を固められたと論じる向きもある。ウクライナに侵攻しているロシア部隊を不安定化させる要因となっていたプリゴジンを排除できたうえに、軍、治安部隊、政権上層部に対し、自身への忠誠を改めて誓わせる契機にもなったからだ。
身辺警護担当の不穏なパッチワーク
しかし、アナリストらの考えは異なる。中でもプーチンの身辺警護担当がさまざまな利害関係と権力系統に属している者たちでパッチワークのように構成されている事実に鑑みると、ばらまきを続けることでプーチンは新たな脅威に直面することになる、というのがこうした専門家たちの見立てだ。
7月4日には、複数のドローンが飛来し、モスクワ地域に入るまで迎撃できなかった、という事態が発生。ロシアの面目がまたもや潰された。首都モスクワに対する空からの攻撃は以前から続いており、クレムリンはウクライナによる攻撃だと非難している。
「短期的にはプーチンの勝利ということになった。だが、長期的には不安定な状況だ」と、サンクトペテルブルク欧州大学の政治学教授グリゴリー・ゴロソフは言う。