大谷翔平をめぐるテレビとネットの温度差のワケ 「テレビは全力だが、ネットはクール?」のなぜ

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ここまで挙げてきたように、「テレビは終日だが、ネットは試合から数時間」「テレビは長い特集も多いが、ネットは短い速報がほとんど」「テレビは全力だが、ネットはクール」などの違いがわかるのではないでしょうか。

祈るように活躍を望むテレビ関係者

このようなテレビとネットの違いを生み出している主な理由は、動画使用に関する権利の問題、さらに、映像と文字の違いによるものでしょう。

実際のところ、「大谷翔平」と検索して表示されるまともな動画は、「MLB」「SPOTVNOW」のYouTubeチャンネルくらいで、時折エンゼルスのツイッターなどにも動画はアップされますが、それほど数は多くありません。大谷選手のニュースを報じているネットメディアの動画はなく、文字で報じているだけです。どんなに大谷選手の活躍が凄くても、動画使用にかかる費用対効果を考えると、ネットでは文字だけで報じるという形になるのでしょう。

その点、映像を見てもらうメディアのテレビは、大谷選手のニュースで視聴率が獲得でき、さまざまな番組で使用できるのなら、放映権が高額でも迷う余地はありません。一方、ネットメディアは、「動画コンテンツに注力してもなかなか見てもらえない」「けっきょく文字で書いた記事のほうを読まれる」というまだまだ文字中心の世界。仮に費用対効果を度外視して考えたとしても、熱心な野球ファン以外の人々にプレー動画をどれだけ見てもらえるかは未知数なのです。

そしてもう1つ、テレビが全力で大谷選手のニュースを扱っている理由として挙げておきたいには、中高年層や主婦層に受けがいいこと。平日の日中や土日の午前に放送される報道・情報番組やワイドショーのメイン視聴者層は中高年層と主婦層であり、ここに好かれる人物であることが重要です。

その点、大谷選手は実力だけでなく、人柄や見た目なども含めて好印象。中高年層には野球を長年見続けてきた人が多いだけにその凄さが伝わりやすく、主婦層の中には息子のように見守る人や爽やかなイケメンアスリートとして見る人もいるようです。

今後も大谷選手はオールスター戦の出場から、チームのプレーオフ進出や個人タイトル獲得に向けて活躍し続けていけるのか。テレビ関係者のほうが、オールスター戦でのMVP獲得、エンゼルスのプレーオフ進出やワールドシリーズ制覇、最多本塁打やサイ・ヤング賞の獲得などを待望しているのは間違いなさそうです。また、裏を返せば「ケガだけはしてほしくない」という気持ちもテレビ関係者のほうが強いのでしょう。

大谷選手の活躍が続く限り、テレビはますますそのニュースに人や金を投資していくでしょうし、ネットはより小刻みな速報記事で対応していくのではないでしょうか。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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