山Pが出演の韓流映画『SEE HEAR LOVE』の戦略 「Amazonプライムビデオ→海外劇場公開」の試み

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TIMEの親会社REMOWは、日本作品の海外展開のための関係づくりをひそかに構築してきた。その関係があるうえで『SEE HEAR LOVE』の場合はイ・ジェハン監督作品つまり「韓流」映画だから海外展開が成立した。日本市場には日本のスター俳優が出ていることで送り出すことができたが、海外に向けては「韓流クリエイター」の作品に日本のトップスターが出ていることが強みになったのだ。

さらに今回、異例の取り組みだったのが、主演の2人、山下智久と新木優子が韓国、香港、台湾、タイの4カ国を巡りそれぞれで劇場での舞台挨拶、メディア向け会見を行ったことだ。6月22日から28日まで、7日間かけたツアーで各国を巡る例は、日本映画の海外興行ではあまりなかった。

REMOWと各国配給会社の協力関係があってのことであり、主演の2人もこの作品に力を入れていることの証とも言えるだろう。本当に海外展開を成功させるなら、こうした現地でのプロモーションは欠かせない。山下智久は韓国での挨拶で最後に「今日はこのために時間を作っていただき、ありがとうございました」と感謝を示したという。観客と直接会うことの意義と喜びを感じての言葉だろう。

6月22日、韓国ソウル市内の映画館MEGABOX COEXで行われた舞台挨拶に出席した山下智久と新木優子 (©2023「SHL」partners)

コンテンツ業界全体が注目すべき兆し

日本のコンテンツは海外になかなか出られなかった。映画興行で言うと中国に抜かれるまで、日本は長らく世界第2位の市場で、無理をして海外市場に打って出なくてもなんとかなってきた。ただし監督などクリエイターはじめ制作現場のプロたちの「やりがい搾取」のうえに成り立っていたとも言える。人口減少で国内市場が急速にしぼむと予想されるいま、そうも言っていられない。

だが大手映画会社やテレビ局は国内市場に自分たちを最適化してきたため、海外市場に向けた構造転換がなかなか進まないように見える。まったく別の流れが必要ではないかと私は考えていたが、『SEE HEAR LOVE』はまさに新しい潮流を生み出す一歩になりそうだ。

これまで映画界を仕切ってきた大きなプレイヤーでなくても、日頃の地道な関係づくりとマネタイズを組み立てる才覚があれば、世界を相手にできるのかもしれない。さらにその実績を積み重ねることで、コンスタントな海外展開の潮流が大きな流れになっていくのではないだろうか。『SEE HEAR LOVE』の海外展開には、コンテンツ業界全体が注目すべき兆しがあるのだと思う。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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