山Pが出演の韓流映画『SEE HEAR LOVE』の戦略 「Amazonプライムビデオ→海外劇場公開」の試み

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英田氏は「海外の監督さんに日本に単独で来てもらうと、監督らしさを出しにくくなる」と過去の経験からも感じていたそうだ。この映画は「物語だけでなく、映像の感覚、伝わる空気も含めて韓国っぽい作品になった。スタッフを連れてこないとここまではできなかった」と英田氏は捉えている。

確かに、1つひとつのカットやシーンが、日本なのに日本っぽくない。どこか架空の国の物語のように見える。それがこの「メロドラマ」を浮つかせず、一種のファンタジーとして心に響く物語に見せている。

視覚を失ってしまう漫画家、泉本真治を演じる山下智久(右)と生まれつき耳が聞こえない相田響を演じる新木優子。障害のある2人が手を通して通じ合う美しい場面(©2023「SHL」partners)

劇場公開前に先行配信という試み

さてこの『SEE HEAR LOVE』はすでに6月9日よりAmazonプライムビデオで先行配信されている。7月7日から劇場公開されたのはディレクターズカット版。さらに、韓国・香港・台湾・タイでも劇場公開される。

劇場公開の前に配信サービスで先行させるのは、コロナ禍以降ひとつの手法になった。先に一定の層に見てもらうことが劇場公開に向けた話題作りになる。主演陣のファンは配信で見たうえで、さらに劇場でも楽しみたいと思うだろう。

Amazonプライムビデオでの先行配信はわかるとして、日本でヒットが確定する前から海外展開を準備していたのは驚きだ。日本の大手映画会社やテレビ局が関与しているわけでもないのに、大胆な戦略に思える。これについて英田氏は「海外配給を同時並行でブッキングできた」と説明する。それを行ったのは、TIMEの親会社REMOWだ。

REMOWは「日本のコンテンツを世界へ届ける」を理念に2022年に事業を開始した会社で、海外の配給会社や配信会社との関係を急速に構築している。主に日本のコンテンツ企業と海外市場との橋渡しをしているが、さまざまな企画の中で主体的に製作も行う際には、子会社のTIMEが担当する。『SEE HEA LOVE』はTIMEが製作しREMOWが海外と結ぶ第一作となった。

今でこそ日本のアニメ映画は海外でも売れるようになってきたが、実写映画はなかなか海外では高く販売できない。それを『SEE HEAR LOVE』で実現できたのは「すごく意味が大きかった」と英田氏は言う。

そもそも日本の映画は製作委員会を組む段階で、日本国内でヒット、回収させることばかり考えてしまい、海外で売れるかどうかをほとんど考えない。日本でヒットした後で、じゃあ海外展開もしてみようと動いてもたいして売れず、販売のためにかけたコストを回収できないケースが多い。

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