租税3原則の起源とされるのは、1949年から1950年にかけて出された「シャウプ勧告」である。「シャウプ勧告」は、わが国の戦後税制を形作るうえで大きな役割を果たした。
ただ、1947年に成立した財政法第4条では「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」とされており、この条文を非募債主義(または公債不発行主義)と呼んで、以来1964年度まで国の一般会計では国債を発行しなかった。
まさに、歳出に見合うだけの税収を確保することが前提となっていたわけで、わざわざ租税の「十分性」を租税原則として強調する必要がなかったといえる。
消費税導入で「公平・中立・簡素」が登場
時は下って、3原則を強調して今日に至るまで影響を残したのが、1987年・1988年の抜本的税制改革である。このとき、直接税中心の税制となっており、所得が増えれば直ちに所得税負担が増えるという「重税感」を緩和すべく、まだわが国にはなかった大型間接税である消費税を1989年度に導入する議論が展開されていた。
その際に重視されたのが「公平・中立・簡素」の3原則だった。1988年6月に政府税調が取りまとめた「税制改革についての答申」に、その3原則が明記された。
この時期、政府は「増税なき財政再建」を掲げ、赤字国債の発行をゼロにする取り組みを実行していた。当初予算では1990年度にそれを実現するのだが、歳出を赤字国債に依存せず税収で賄える財政運営を進めており、租税の「十分性」を強く意識しなくてもよい状況だった。
ところが、日本の財政の現状はそうではない。3原則と並んで租税の「十分性」を重要なものと位置づけるのが、今般の答申の特徴の一つといえよう。
今般の答申では、目下起きている経済社会構造の変化にも目を向けている。働き方やライフコースの多様化、経済のグローバル化、Web3.0や暗号資産の台頭を含むデジタル化、エネルギー・環境問題や安全保障環境などの変化、格差をめぐる状況の変化、人口減少・少子高齢化といった動向に対して、税制はどう適応してゆくかについて言及している。
個別税目については、所得税、法人税、消費税など各税目における現状と課題について、時には細かいが重要な改正項目に触れている。紙幅の都合で、本稿では消費税のみ取り上げる。
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