人に伝えるのが「上手い人」「下手な人」の決定的差 わかりやすく伝えるために行いたい「準備」とは

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「表現する」「つくる」というと、まず思い浮かぶのは、実際に手などを動かして、なにかをかたちづくる作業でしょう。文章でいえば言葉を書いていく作業がそれですが、いろんな情報や要素といった素材を加工しつつ、構成を工夫したり、順序立てて配置したりしながら、「組み立てる」ようにして、かたちにします。

でも、それはあくまで〈表現物〉をつくる最終段階の話です。

実際には、その前に「組み立て」のために「必要な素材を集めるプロセス」が存在します。

文章でいえば、盛りこむべき事実だったり、データなどの情報だったり、考えや思いだったりといったものをあちこちから見つくろう。いわば素材を「選びとる」プロセスです。

文章を書く前にしておきたいこと

こう書くと、執筆のための下調べの話のようですが(それも含みますが)、いまここでとくに注目したいのは、もっと思考に近い部分の意識の動きです。振り返って思い浮かべていただくとわかるように、文章を書いたり、話をしたりするときには、誰しも、

「あの出来事を書こうかな……。いや、ふさわしくないか」

「あのデータを入れてみようか……。いいかもしれない」

などと、いろんなことを思い出しながら、盛りこむべき素材を吟味します。そして、そこでふさわしい、適切だと判断したものをつかって、文章やお話を「組み立て」ていく。

あくまでおおざっぱにいえば、ですが、私たちは素材を「選びとって」、それを「組み立てる」という、この2つのプロセスを経て、伝えるための〈表現物〉をつくっているのです。

伝え方——伝えたいことを、伝えてはいけない。
『伝え方——伝えたいことを、伝えてはいけない。』(クロスメディア・パブリッシング)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

ある基準にそって取捨・選択する意味の「整理」と、あるべき場所に置くという意味の「整頓」をあわせた「整理整頓」という言葉がありますが、イメージとしては「選びとる」が整理、「組み立て」が整頓です。

となると、先ほども指摘したように、文章にせよ、ほかの〈表現物〉にせよ、注目されるのは最後の「組み立て」のプロセスであっても、実際に〈表現物〉の出来を左右する、つまりは適切な伝え方ができるかどうかは、「選びとる」プロセスにかかっているといえます。

いくら腕のいいシェフでも、肉が用意されていなければステーキをつくることができないのと同じで、集めた素材が的はずれであれば、そもそも的を射た=伝わる〈表現物〉をつくりようがないからです。

では、適切に素材を「選びとる」にはどうすればいいのか。必要なものかどうかを見きわめるには、判断のもととなる“ものさし”が不可欠です。

その“ものさし”となるのが、「伝えるべきこと」なのです。

(『伝え方——伝えたいことを、伝えてはいけない。』より)

「伝えるべきこと」がはっきりわかっていると、“ものさし”が明確ですから、「はっきり選びとる」ことができるようになります。「伝えるには、この情報が必要だ」と、適切な素材を選びとることができる。

「伝えるべきこと」は、いわば「伝え方」の扇の要のようなものなのです。だからこそ、なによりも最初に「伝えるべきこと」を明確にする必要があるのです。 

松永 光弘 編集家

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まつなが みつひろ / Mitsuhiro Matsunaga

1971年、大阪生まれ。「編集を世の中に生かす」をテーマに、出版だけでなく、企業のブランディングや発信、サービス開発、教育事業、地域創生など、さまざまなシーンで「人、モノ、コトの編集」に取り組んでいる。20年あまりにわたって、コミュニケーションやクリエイティブに関する書籍を企画・編集。企業のアドバイザーもつとめており、顧問編集者の先駆的存在としても知られる。自著に『「アタマのやわらかさ」の原理。クリエイティブな人たちは実は編集している』(インプレス刊)、編著に『ささるアイディア。なぜ彼らは「新しい答え」を思いつけるのか』(誠文堂新光社刊)がある。

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