日本製鉄、最高益なのに「PBR0.65倍」のジレンマ 今期「減益・減配予想」で急落の株価は停滞続く

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第1は、しっかりとしたマージン(利ザヤ)を確保できるようになったこと。2021年にトヨタ自動車との価格交渉が話題となったが、国内大口顧客との取引における販売価格、いわゆる「ひも付き」価格で値上げを実現できるようになった。

もともとひも付き価格には、鉄鉱石と原料炭といった主原料の価格変動が計算式(フォーミュラ)で反映される。だが、副原料や物流費、労務費などの諸経費は個別交渉で、それらの値上がり分をかつては十分に価格転嫁できていなかった。それが、諸経費の変動の価格転嫁が可能になり、さらに製品の付加価値に見合った値上げも勝ち取れるようになった。

背景には、2020年以降に進めてきた高炉休止を含む国内の過剰な生産能力の縮小がある。稼働率維持のために量を優先する必要性が薄れたことで、採算重視の価格交渉が可能になった。過剰な設備を削減したことで固定費も下がった。これが第2の理由だ。

第3に、鉄事業のグループ会社も採算重視の価格交渉やコスト削減を進めたこと。これらによって、数量の落ち込みや、海外の鋼材市況悪化というマイナス要素を補い、高水準の利益をたたき出すことができた。

実力アップなのになぜ減益予想なのか

こうした体質強化は一過性ではない。つまり、“実力”が上がってきたことを意味する。

では、なぜ2024年3月期は減益予想となっているのか。最大の要因は「在庫評価差」にある。

【在庫評価差】原料在庫を「総平均法」で評価している場合、原料価格の上昇局面では以前に仕入れた安い原料があることで、会計上の原料単価が(原材料の実勢価格より)低くなり、利益が押し上げられる。一方、原料価格の下落局面では逆に利益が押し下げられる。この利益の増減を「在庫評価差」と呼ぶ。
「評価損益」とは異なり実現損益ではあるが、原料相場の変動による時間差から来る利益の増減要因として、鉄鋼業界では在庫評価差を除く利益を『実力ベース』と重視する。

2023年3月期は4~6月に原料炭が526ドル(前年の4~6月は117ドル)と暴騰したことなどで、在庫評価差が2400億円プラスに働いた。つまり前期の最高益は、在庫評価益というゲタを履いていた。

しかし、前期後半にかけて原料炭高騰は一服し、足元は200ドル台後半(鉄鉱石はおおむね横ばい)で推移している。会社予想はこの水準が続くという想定だ。

原料価格に応じて鋼材価格も下がる。一方、前期の高値在庫によって会計上の原料単価が上昇するため、2024年3月期は在庫評価差が800億円のマイナスに働くと見込んでいる。

結果、前期と今期予想では、在庫評価差だけで3200億円の減益要因がある。加えて、9月に予定する呉地区(広島)の休止費用など700億円を計上するほか、税効果の関係で税金負担が増えるため、純利益がほぼ半減という予想につながっている。

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