就活エリートの迷走 豊田義博著


本書の価値は鋭い分析であり、世間の常識に反するものもある。たとえば就職協定や倫理憲章だ。「協定がなくなったから」「憲章を守らない企業がほとんどだから」、新卒一括採用市場がおかしくなっている、と考える人は多いだろう。経済団体や文科省の言う「早期化の是正」の背景には「新卒採用になんらかの取り決めが必要」という考えがあると思う。

ところが著者の分析は逆だ。1997年に形骸化した協定が廃止されたことによって、それまでの「集団お見合い型」から、学生と企業がさまざまな形で出会い、お互いを見極める「自由恋愛型」就職・採用への大変革が始まった。もちろん早期から採用活動を始める企業もあったが、秋採用、通年採用も定着し、自由化にふさわしい市場が形成されていた。

しかしこの自由化の流れは、2004年に倫理憲章に追加された一文によって転機を迎える。「卒業・修了学年に達しない学生に対して、面接などの実質的な選考活動を行うことは厳に慎む」。

「厳に慎む」のは3年生の3月までだから、実質的な選考解禁日は4月1日になる。そうして学生が内定を獲得する時期は、4年生の春へと早期化・一極集中した。本書に日本生産性本部の内定獲得時期のデータが掲載(68ページ)されているが、2003年、2004年でもっとも多いのは「4年夏」で約40%。「4年春」は20%強と少ない。2005年から「4年春」が増え始め、2008年以降は50%を超えている。確かに早期化・一極集中した様子が見て取れる。

憲章に一文が追加されたことにより、企業の採用心理が変わり、この5、6年の異様な採活・就活になったという著者の分析は正しいようだ。とすれば現在の選考時期に関する議論は、事実を無視していることになる。

(HRプロ嘱託研究員:佃光博=東洋経済HRオンライン)

ちくま新書 798円

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