就活エリートの迷走 豊田義博著
タイトルに「就活」というコトバが使われているが、採用担当者だけでなく、教育研修担当者にもすすめたい良書だ。マネジャーや経営者も読めば学ぶものが多いだろう。組織戦略を実行するために、現在の若者、大学、就活の現状を知る必要があるからだ。
内容は、有名企業・人気企業から早くに複数内定をもらい、第一志望企業に就職していった「勝ち組」の新人・若手に起こっている変調である。「あの会社では、新人の8割が戦力になっていないらしい」のはなぜか?
著者はリクルートブックの編集長を経て、リクルートワークス研究所の主任研究員というキャリアだが、さすがにリクルート。データも豊富で正確だし、分析の方向も鋭い。
著者は人間集団を5:15:40:40の比率で分類し、就活生を天才肌の「ハイパー層」と努力型の「エリート層」が上位の2割を占め、残りの8割の半分ずつ「漂流層」と「諦観層」が存在するという。
しかしそのエリート層は就職してからエリートであることをやめ、不満を募らせていく。優秀学生を採用したつもりだった企業には、そんな若手社員の不満が理解できない。活躍してくれそうな学生を選んだのに、なぜ?
原因は意外なところにある。就活の過程で形成されたアイデンティティが就職後に解体されてしまうのだ。そして不満を抱くようになる。
就活に熱心に取り組む学生は、短期間のうちに成長する。最初の面接でしどろもどろだった学生が、いつの間にか自信に満ちて面接官と対話できるようになる。
「就活が始まる前には子どもの姿かたちをしていたのに、悶々としている蛹(さなぎ)の時期を経て、瞬く間に成人へとメタモルフォーゼしていくのだ」。逆に言えば、そのようにアイデンティティを形成した学生が内定を得られる。漂流する学生はなかなか内定を得られないし、諦観した学生は就活をあきらめてしまう。
しかし就活の中で確立するアイデンティティは「自己分析」からスタートし、「やりたいことはなんですか?」に対する答えを中核にして形成されている。言い換えれば「5年後、10年後にどのような自分でありたいか」というキャリア・ゴールにこだわるキャリア観が中核にある。