「クローゼットとして生きる」LGBTQ当事者の苦悩 「友情結婚」までしても性的指向を隠し通す理由

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ケイさんは自身のことを社会にカミングアウトしていない、いわゆる「クローゼット(in the closet)」の生き方を選んでいる。LGBTQ当事者および、「この人は信頼できる。差別や偏見がない」と思う人にしか、そのことを明かしていない。

どうして、クローゼットとして生きているのか、ケイさんはこう話す。

裁判所前でインタビューに答えるケイさん(写真:本人提供)

「2つのリスクがあると考えます。1つは、自分が知らないところで、勝手にその話が広まったらどうしようと思うこと。もう1つは、話したことでその相手との関係性が変わること。例えば、その人に差別や偏見がある場合、その人から距離を取られてしまうことを心配します」

カミングアウトされた人が本人の同意なく他人にそのことを話してしまうことを「アウティング(outing*1)」という。

アウティングはプライバシーの侵害につながり、生命に関わるほどの深刻な影響をもたらす可能性がある(*1)とされ、東京高等裁判所の判決でも「人格権ないしプライバシー権などを著しく侵害するものであって、許されない行為」と示された(*1)。

また、他人にセクシュアリティを明かしたときに、それを否定されることは、自身のアイデンティティに関わる。「自分の生き方や価値観(*3)」の喪失にもつながる。生きていくうえでの失望、絶望に近い気持ちになるため、周囲に打ち明けることが難しくなる。

ケイさんが語ったつらい経験

ケイさんは、家族にも自分のセクシュアリティについて、明確には話していない。ひどく、つらい経験があったからだ。

30代のはじめ、それまで5年以上付き合っていた元パートナーのAさんと家を購入して、同居する計画を親に話したことがあった。しかし、親は娘が結婚や出産の気持ちがないと知り、「孫の顔は見られないのか」と嘆いただけでなく、取り乱しながら「そんな人は信用できない」と強い口調でAさんの人格を否定した。

Aさんは、親がつらい状況になったとき 、サポートしてくれたことがあった。だからこそ、ケイさんはAさんに対する親の発言を申し訳なく思ったという。同時に、心の中では「うちの親なら同性愛への理解があるだろう」という淡い期待もあったので、強い拒否反応には言葉がないほどのショックを受けた。それ以来、親とは「その話に触れていない」と言う。

ケイさんにとってAさんは、趣味も経済的な感覚も価値観が一致する人で、一緒にいると、とても楽しかった。このため、同居を始めた当初は新婚生活が始まるようなイメージを抱いていたが、実際はまったく楽しいと感じられなかった。

やがて、うつ病と診断された。その理由は、「親に、娘が大切に思う人のことは否定しないでほしかった。Aさんが異性であれば早々と結婚を選び、家族も拒否しなかったはず」という気持ちと、「親に孫の顔を見せられない。親の期待を裏切った」という自責の苦しさからだった。

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