「羽生結弦」出演ショーが地域振興に絶大効果 奥州市開催「スターズ・オン・アイス」が大盛況

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新幹線の臨時便が出れば日帰り客が多くなるが、複数の公演のチケットを持つ人が近隣のホテルに宿泊・滞在した例もあった。今年は桜の開花が早かったため、夜は市内の桜の名所である水沢公園に夜桜を見に行った人もいたようだ。今回、チケットは比較的取りやすかったようで当日券(2階席・1万8000円)も発売された(提供:奥州市)

奥州公演は地元の人がアイスショーを見に行くきっかけにもなった。

「有名な羽生結弦さんが来るとのことで、発表されてすぐ地元も『初めて生で見られるかもしれない』と盛り上がりました。地元にもスケートファンはいますが、普段は東京や横浜に見に行っているので、『Zアリーナで見られるなんて』と」(千葉部長)

高齢者、夫婦や家族での観覧が目立った

奥州公演の主催者である木下グループによると、実際、観客の層は異なっていたという。「奥州公演はご夫婦、ご家族での観覧が多かった印象。通常、アイスショーに来場されるのは女性が中心ですが、奥州は大阪や横浜とは少し違っていたように感じました」(同社広報)

奥州公演は木下工務店などで知られる木下グループの単独主催。後援に地元のIBC岩手放送という座組で開催された。木下グループの広報担当者は今回の奥州公演の意味を次のように話す。

「アイスショーは大都市圏でなければ開催が難しいと考えられがちですが、地方で開催すればその近隣のお客様に生で見ていただく機会になります。地元の方が全面的に協力してくださって、実際、今までとは違うアイスショーになったと思います。奥州公演のような盛り上がり方は、地方公演ならではだと感じました」

岩手といえば盛岡冷麺と思われがちだが、地元・奥州市の料理を出すキッチンカーや、お土産・工芸品の販売ブースも出た。市役所としても地元のPRブースを出して、1日当たり6人の職員が現場で対応した(提供:奥州市)

奥州公演の成功からみえてくるのは、主催と地元の信頼関係、協力体制の構築の重要性だ。それがあってこそ、開催地はショーを地域PRの場として活用でき、主催側も地元の観客に幅広くフィギュアスケートに親しんでもらう機会を提供できる。主催者と地元には各方面への細やかな対応が求められる。

今回、奥州市はスターズ・オン・アイスに関する諸々に市のプロモーション事業の一環として取り組んでいた。開催地にもさまざまなコスト負担が発生することを踏まえ、双方にメリットのある形を追求することで、地方開催は持続可能なものとなるだろう。

他地域と地元、両面での集客は簡単ではないものの、知名度や人気のあるスケーターがショーに出演する際、地方公演を設定することの意義は大きい。多くの人を迎えるとなれば地域の負担は大きくなるが、訪れた人々が気持ちよく、ほどよくお金を使える場とモノを用意しておくことで、開催地にも還元されるものがある。奥州公演にはその可能性が感じられた。

(続編:「りくりゅう」所属、木下グループの選手支援力 フォトギャラリー後編

山本 舞衣 『週刊東洋経済』編集者

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やまもと まい / Mai Yamamoto

早稲田大学商学部卒、2008年東洋経済新報社に入社し、データ編集、書籍編集、書店営業・プロモーションを経て、2020年4月育休を終え『週刊東洋経済』編集部に。「経済学者が読み解く現代社会のリアル」や書評の編集などを担当。

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