苫小牧に注目「CO2を地中に埋める」技術の今 大きな転換期にある「CCS」の先端を取材した

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ただし、モニタリングの期間や方法などについては、国や地域によって準拠する法令が違い、また日本では貯留事業者の保安責任やモニタリング責任が不明確である(経済産業省CCS長期ロードマップ検討会 最終とりまとめに記載)といった面もあり、今後は国際基準化などをさらに進める必要があると思われる。

2つ目は、「なぜ、海底下の地層に埋めるのか」である。これは、現時点で陸域でのCO2地中貯留に関する法律がなく、苫小牧CCS大規模実証試験では「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」(海洋汚染防止法)に基づいて実施するという立て付けになっているためだ。

苫小牧CCS実証試験設備の位置関係(日本CCS調査株式会社の資料より)

「経済産業省CCS長期ロードマップ検討会 最終とりまとめ」によれば、これまでの調査で日本にはCO2貯留に適した地層(貯留層)が北海道から九州まで11地点で、合計160億トンあると推定されている。

また、IEA(国際エネルギー機関)の試算から推計すると、国がカーボンニュートラルを目指す2050年時点でのCCSの想定年間貯留量の目安は、年間約1.2億~2.4億トンだ。ここからバックキャストすると、2030年中には国内でCCS事業を開始し、そこから2050年に向かって事業拡大に導く必要があるとの考えを国は示している。

CCSの導入拡大イメージ(CCS長期ロードマップ検討会 最終とりまとめ 説明資料より)

そのため、国は現在、CCSに関する早急な事業環境整備を進めており、その中で新しい法律の策定について議論しているところだ。その新法に基づき、今後は日本の内陸部でのCCSも実施される可能性が高いと考えられる。

3つ目は、「コストが高いのではないか」という点だ。これについては、「経済産業省CCS長期ロードマップ検討会 最終とりまとめ」の中で目標値を示している。

具体的には、CO2の分離・回収は、2030年に約半減、2050年に4分の1以下。輸送は、2030年にコスト削減を目指す事業を開始し、2050年に7割以下。貯留は、2030年にコスト削減を目指す事業を開始し、2050年に8割以下だ。

このように、分離・回収については現状技術の発展による技術革新のスピードが速い一方で、輸送と貯留についてはまだ検討の初期段階にある印象だ。

大きく変わるCCSへの風向き

4つ目は、「地震による影響はないのか」という懸念だ。

2018年9月に発生したマグニチュード6.7の北海道胆振東部地震で、苫小牧CCS実証試験センターは震度5弱を経験しているが、地上設備の異常はなかったという。また、貯留層についても、モニタリングしている温度や圧力の観測データ等から、CO2の漏洩を示唆するデータは観測されてないことについて有識者の共通認識を得ている。

こうした最新設備を持ち、しかも市街地からの距離が近い苫小牧CCS大規模実証試験は、世界的にも関心が寄せられている。

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