海外から視察に訪れた人は、2012年度より50カ国以上2000人に達しており、海外政府、大使館、大学・研究機関、産業関係者、海外メディアなどさまざまだ。ところが国内の視察者については最近、変化が起きているという。
日本CCS調査の取締役総務部長 川端尚志氏は「最近、視察に来られる方には、銀行や保険の業界の関係者も増えてきた」と、CCSに関する大きな時代の変化を感じているというのだ。
背景にあるのは、2010年代後半からESG投資(環境・社会性・ガバナンスを重視した投資)がグローバルで広まったことと、それに伴い日本では菅政権時に2050年カーボンニュートラルに向けた政策を掲げたことが挙げられる。CCSを学術的な観点だけではなく、社会実装を前提とした事業として捉える人が増えてきているといえるだろう。
さらに、冒頭で紹介した「昨年(=2022年)、世界的に(CCSは)懐疑論から政策導入に転換。貯留地を巡る『大競争時代』の到来」(経済産業省CCS長期ロードマップ検討会 最終取りまとめ)という状況で、CCSに対する関心がグローバルで一気に高まっていることも大きな理由の1つだ。CCSは今、明らかに大きな転換期にあるといえる。
そもそも苫小牧が選ばれたワケ
そうしたCCSに対する時代の変化については、苫小牧市でもはっきりと認識しているという。
苫小牧市産業経済部企業政策室港湾・企業振興課 課長の力山義雄氏と主査の内山隼典氏も「菅政権のカーボンニュートラル宣言後、CCSについては苫小牧市だけではなく国全体で風向きが変わった印象がある」と変化を体感していると話す。
では、なぜ大規模なCCSの実証試験場が苫小牧に作られたのか。もとをたどれば、早い段階で苫小牧市に確定していたわけではないという。
国内で複数の候補地があったが、2011年の東日本大震災によって国は候補地選びに苦慮し、そうした中でそれまでも環境施策に積極的だった苫小牧市がCCS大規模実証試験の誘致に動いたという経緯があるのだ。
背景にあるのは、岩倉博文市長の“先見の明”と、苫小牧市民が「苫小牧は工業の町」という意識を持っていることが挙げられる。
古くはパルプ産業から始まり、現在では大規模な苫小牧東部地域を筆頭にした10カ所の工業団地(総面積1万3000ヘクタール)に、紙・パルプ、自動車、石油・天然ガス、化学、産業ガス、鉄・金属、物流……など、約800社がさまざまな事業を行っている。
そのため、苫小牧の人と社会は新しい産業を受け入れることに柔軟で、実際にCCS大規模実証試験に対する苦情はほとんどないという。
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