今回、植田総裁もフィリップス曲線の上方シフトが必要であることを強調した。そのうえで「賃金と物価がともに上昇する好循環の中で、こうした状況となること」を目指しているとした。
黒田総裁の「期待に働きかける」と比べれば慎重な表現で、具体性には欠ける(コミットメントは弱い)。植田総裁は具体的なロジックを示さないことで、そもそも上方シフトさせる政策を中央銀行は持ち合わせていないという考えを暗に示しているのではないかと、筆者はみている。
フィリップス曲線の上方シフトはおそらく日本経済にとって望ましいことである。しかし、それが中央銀行の独力で達成できる保証はない。
いずれにせよ、結局10年経っても「フィリップス曲線の上方シフト」という課題は変わっておらず、その具体策もえられていない状況であることを、植田総裁の講演は明らかにした。
「真のインフレ率」=タマネギの芯?
植田日銀総裁は5月19日の講演で「物価は、経済全体の財やサービスの需要と供給のバランス、すなわち『需給ギャップ』によって決まってくると考えられています」「物価上昇率と需給ギャップとの関係は、経済学では『フィリップス曲線』と呼ばれる」と説明した。この説明自体は一般的なものである。
しかし、「物価上昇率」というのは具体的に何を用いたらよいのだろうか?という問いを加えると奥が深い。
植田総裁自身も2月24日の衆院議院運営委員会で、基調的な動きを見るために物価指数から一時的な要因を取り除いていくことについて「タマネギの皮をむいているようなもの。芯がどこにあるかわからないと指摘されたりする」と、「真のインフレ率」を捉えることの難しさに言及している。
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