吉野家、既存店好調の裏で露呈した「重い課題」 約8割が男性客と偏り、グループ客も少ない
吉野家は客層の拡大を図るために、メニューでも新機軸を打ち出している。その一つが空揚げの強化だ。2016年度から空揚げを単品で注文でき、空揚げと牛肉を同時に盛る「から牛」といったメニューを打ち出してきたが、その後も「から揚げ定食」や「から揚げ丼」を次々と投入。最近も、空揚げ関連商品を10%値引きするなど販売にいっそう力を入れている。
吉野家は2022年度からスタートした新中期経営計画で、空揚げ商品を牛丼に次ぐ「第2の柱」に育成する方針を掲げている。「吉野家を牛丼と空揚げの店にする」。吉野家HDの河村泰貴社長は、事業戦略説明会の場などでこう公言している。牛丼以外のメニューを拡充することで、やはり女性客やファミリー層を取り込む狙いがある。
空揚げを強化する背景には、単一商品に依存する経営体制のリスクもある。牛丼チェーン「すき家」を運営するゼンショーホールディングス(HD)は、ファミリーレストランの「ココス」や回転寿司の「はま寿司」など複数業態のブランドを持つ。一方、吉野家HDはうどんチェーン「はなまるうどん」が傘下にある程度で、業績の大部分を牛丼が占める「一本足打法」の状態だ。
牛肉は価格が変化しやすいうえに、BSE(牛海綿状脳症)などの疫病の影響で仕入れが困難になった過去がある。また、単一の食材に頼っていると、昨今のような原材料の高騰や、気象要因による育成不良などで供給不足が直撃するリスクも高くなる。
飲食店の出店支援事業を手がける店舗流通ネットの戸所岳大社長は、「(すべての食材が一様に高騰するケースは少ないため)商品メニューを絞っている飲食店のほうが、原材料高騰の影響を受けたときのリスクが高くなる」と指摘する。
吉野家はここにきて、空揚げだけでなく、「焼き鳥丼」など鶏肉を使用する商品を拡充している。鶏肉は牛肉に比べて安価で、供給も比較的安定している。鶏肉商品の販売量を増やすことができれば、牛肉依存のリスクを軽減することができるというわけだ。
同業他社は「いまさら遅すぎる」と冷ややか
男性客への依存脱却を急ぐ吉野家だが、そのハードルは高い。「いまさら遅すぎる」。ある飲食店関係者は冷ややかにそう語る。
例えば、競合のすき家は1982年の創業時から男性客以外の開拓を進めてきた。「駅前立地への出店で成功していた吉野家と同じ戦略をとっても勝ち目が薄く、幅広い客層に楽しんでもらえるような店舗を展開する必要があった」(ゼンショーHDの広報担当者)。
すき家では、早くから「お子様牛丼すきすきセット」など子ども用メニューをそろえており、家族で食事を楽しめるようにしてきた。店舗についても郊外型を中心に、テーブルの多い店舗がほとんどだ。チーズなどを使用したトッピングメニューも複数そろえる。
こういった取り組みで競合が開拓してきた女性客やファミリー客を、“後発”である吉野家は掘り起こすことができるのか。
「牛丼といえば吉野家」とブランド想起する消費者は多く、根強いファンがいることは確かだ。しかし、成熟したブランドであるがゆえに、新形態の店舗やメニューの拡充といった新しい試みが本格的に浸透するかは不透明ともいえる。一段の成長に向けて、吉野家は難題に直面している。
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