テクノロジーのトレンドを変える、まさに野心的な製品の誕生だ。
アップルは自社製品の開発者に向けたカンファレンス「WWDC 2023」で、拡張現実(AR)ディスプレイを備えたゴーグル型の新製品を発表した。日本円で約49万円という高価なプライスタグが付けられた、「Apple Vision Pro」だ。
仮想現実(VR)とARをテーマにした製品と言えば、Meta(旧Facebook)がつい先週、「Meta Quest 3」を今秋発売すると発表したばかりだ。
しかしQuest 3が単体のコンピューターとして動作はしつつも、”VRゴーグル”の領域を逸脱していなかったのに対し、Vision Proはそれ単体で新たなコンピューティングのスタイルを提案する、いわば”新しいパーソナルコンピューター”だ。
そもそも両製品には約3000ドルもの価格差があり、Vision Proは2024年にならなければ発売されない。製品コストだけでなく、その位置づけと、目指す世界の違いもある。すなわちアップルは、Vision Proが生み出すだろう新しい市場への入り口として、49万円の価値があると考えているということだ。
試作機を実際に装着してみると、そこにはVision Proを紹介したあらゆる情報を基に想像力を働かせた世界よりも、はるかに豊かな体験があった。
比較対象デバイスが存在しない実体験
Vision Proの素晴らしさは、これまでの同種デバイスにはない、質の高い体験にほかならない。一言で言い表すことができればよいが、残念なことに比較対象となるデバイスが存在しない。
Vision Proの中で体験する、3D映画や没入型の360度映像、わかりやすく美しいユーザーインターフェース、画素を意識させない滑らかで高精細な表示――。個別に賞賛するポイントはあるものの、そのよさは総合的な体験そのものにあるからだ。
頭部に装着するデバイスであるため、重さや装着感が気になる読者も多いだろうが、まずは現時点でのVision Proによるコンピューティング体験がどのようなものかをお伝えしたい。
基本操作は、視線追跡と、片手の2本の指をつまんで離すしぐさで行う。視線はマウス操作に当たり、つまむしぐさはマウスクリックと考えればわかりやすい。
”しぐさ”と表現したのは、実際に対象となる部分をつまむ必要はないからだ。つまむしぐさをすると、見つめている対象が反応する。
指をつまんだまま動かせば対象を移動させることができるが、マウスのドラッグと異なるのは奥行きを検出する点だ。たとえばアプリケーションを表示したウィンドウパネル下部にある、パネル操作のバーを見つめてつまみ、腕を奥に押し込めば、パネルを遠くに再配置できるといった具合だ。
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